第二回 幻の十一人目(たぶん、イレブン)?

第十八話 定まる運命

6月24日 06:05 〔大部屋(男性用)〕


「……」


 今何時だろう。

 むくり、と。ベッドから体を起こした僕は自身が眠ってしまっていたことに気付く。


 ポケットをまさぐり、探り当てた携帯端末が示すのは午前6時の表示。調査を続けるシラベ達の下へ交代人員として、クビにおびえるコロを送り出したのが午前4時半のこと。まだ寝始めてから1時間半しかたっていないのに、もう目が覚めてしまったのか。僕はベッドから足を下すと部屋の中を見渡す。


 並ぶのは空のベッド。僕以外部屋の中には誰も戻っていないようだ。ということはシラベ、ジンケンは夜通し調査をしていたってことか? 僕と入れ替わりに調査に加わったコロはご愁傷さまだ。


「ふわあああああ」


 少し睡眠をとったことで余計に眠気が刺激されたようだ。僕は頭を掻くと伸びをする。眠いのは眠いのだがすぐに横になる気にはなれない。僕は手帳を開くとペンを握る。シラベ達だけに調査は任せていられないからな。一人の空間、今日の襲撃の事を思い返すにはいい機会だろう。


 僕らが襲撃を受けたのはマコが隔離されていた牢屋だ。襲撃者は仮面、コート、斧を身に着け僕らに襲い掛かった。



【仮面】New!

ヨイトの鞄に入っていた白い仮面。目の部分だけがくりぬかれており被れば顔を隠すことができる。

牢屋への襲撃の際、襲撃者が身に着けていた。


【サンタ服】New!

霊安室にあった赤色のコート。霊安室には最初五着のコートが用意されていたが現在三着が霊安室に残されている。

牢屋への襲撃の際、襲撃者が身に着けており、一着が大広間に脱ぎ捨てられていた。残す一着は現在所在不明。


【斧】New!

談話室にあった薪割り用の斧。牢屋への襲撃前までは大広間に保管されていた。

牢屋への襲撃の際、襲撃者が身に着けており、襲撃者が逃走する際に扉のつっかえとして使われた。



 シラベからの受け売りではあるが、襲撃者の格好には違和感がある。霊安室の扉には鍵がかかっていた。コートは二種類あるにも関わらずなぜ冷凍庫のものではなく入手の難しい霊安室のものを使ったのか。そして、なぜ狭い空間での扱いが難しい斧をクビは凶器に選んだのか。



【冷凍庫のコート】New!

冷凍庫にあった緑色のコート。冷凍庫には最初五着のコートが用意されており襲撃前後で数は変わっていない。


【霊安室の鍵】New!

牢屋の鍵とともに管理される霊安室の扉の鍵。霊安室は基本的に施錠されており、鍵はマモルが預かっていた。牢屋の鍵がマモル以外の管理下に置かれたのは死体搬入時と、テイシの刃物騒動の時のみである。また初日の午後2時までは霊安室に鍵はかかっていなかった。



 そういえば、襲撃の際デンシさんとマモルさんは襲撃を受けたけれど結局は殺されなかった。襲撃者の目的はいったい何なのか。



【襲撃を受けたマモル】New!

牢屋への襲撃の際、斧により右腕を負傷。マモルに傷をつけた襲撃者はテイシから反撃を受け遁走した。


【襲撃を受けたデンシ】New!

牢屋への襲撃の際、大広間で首輪への攻撃を受けたデンシは、作動した首輪の破壊防止機能により眠らされていた。



 こうして書き並べただけでも襲撃者の行動には不可解な点が多いな。ああ、不可解と言えばぬいぐるみから受け取った荷物。あの中に入っていた写真もそうだ。この生活とは直接関係が無いうえに、僕とマコの写真には互いがあべこべに写っていた。僕らはそれがクビからのメッセージであると考えたが、実際のところどうなのだろう。



【写真】New!

それぞれの荷物の中に一枚ずつ入っていたもの。ポリス君曰く、クビを特定するためのヒントだというが?

それぞれの写真には本人とその知人が写っていたが、テイシのものにはマコが。マコのものにはテイシとマコの父親が写っていた。



 改めて証拠を見返す。ここにどんなクビの意図が隠されているのか。考えてみるもののやはりうまくまとまらず。僕は固くなった体で伸びをすると立ち上がる。皆の下へ一度顔を出そう。今はやはり眠れる気分ではない。短時間とはいえ休めたためか少しだけ前向きになった心で僕は大広間へと続く扉に手を掛ける。クビが何を考えているのだとしてもまた、先のように撃退してやればいい。僕は待ち受ける死の運命へと立ち向かうべく気合を入れる。


 


6月24日 06:07 〔大広間〕


「あれ、テイシも起きちゃったの?」


 出迎えてくれたのは僕と同じく女性用の大部屋で眠っているはずのマコであった。


「ああ。目が冴えちゃって」


「私もだよ。一人でいると怖くなっちゃうんだ。だから、みんながいるここに出てきたんだよ。本当は無理にでも寝たほうがいいとは思うんだけどね」


 力なく笑みを浮かべるマコ。見れば大広間にはマコのほかにカタメ、デンシ、マモルの姿が。


「シラベさん達はまだ調査に出ているんですか?」


「ああ。まったく熱心なことだ」


 シラベ、ジンケン、コロの三人は戻ってきていないらしい……まさか、シラベ達は寝ないつもりなのか。シラベ達が調査を始めてからすでに二時間が経過している。


「少し、様子を見てきましょうか?」


「聞き分けのない犬どものすることだ。放っておけ。眠くなれば自然と帰ってくるだろう」


「ですけど」


「あっ! じゃあテイシ。私、ちょうどトイレに行きたかったんだ! 付き添ってもらってもいいかな?」


「ありがとうマコ。二人での行動なら認めてくれますよね」


「……まあいい。勝手にしろ」


 カタメは不機嫌そうに顔をそむける。僕は付き添いに名乗りを上げてくれたマコに小さくうなずく。

 今頃シラベ達は調査に夢中になっているのだろう。とはいえ、皆が寝不足の状態ではクビへの対抗もままならない。ここは一度調査を切り上げて戻ってきてもらうべきだろう。


 僕は廊下へと続く扉に手をか



――ピィーーーーーーー



「きゃっ!」


 響く電子音に僕の体は硬直する。聞き覚えのあるこの音は!


「テイシ! まさかシラベさん達に」


 鳴りやまない防犯ブザーの音は談話室の方から聞こえてくるようだ。僕らは反射的に扉から飛び出すと、談話室目掛け走り出そうとする、が。


「たたた、助けてください!」


「コロさん!? どうしたんですか」


「クビが、クビが出たんです!」


 大広間前の廊下には人影があった。ぶつからないように足を止めた僕らの目に飛び込んできたのは顔面を蒼白にしたコロの姿であった。


「シラベさん達は!?」


「だ、談話室でクビに襲われて。シラベさんと、ジンケンさんが!」


「ありがとう。談話室だね!」


「ああ。行こう」


 要領を得ないコロの説明だが声色から事態が緊迫していることは伝わる。廊下を走ればすぐに談話室の扉は見つかる。


「っ!?」


「きゃああああああああああああ」


 僕らがたどり着くよりも早く開く談話室の扉。開いた扉の陰から覗くのは、忘れもしない襲撃者がつけていた白い仮面。


「うわあああああああああああ!」


 気づけば叫んでいた僕。白い仮面に赤いコート。サッとこちらを向いた襲撃者は、僕にそこで初めて気づいたのだろう。襲い来る僕の顔を一瞥した襲撃者は談話室の向かいにある霊安室へとそのまま入っていってしまう。


「ま、待て!」


 ここで奴を逃がしたら! 僕はフル稼働する足へ更に力を込め、姿勢を前傾させる。勢いをそのままに扉へと肉薄した僕は、その時覚えた違和感に、チラリと談話室の中を覗き込んだ。




6月24日 06:13 〔談話室〕


 目に入ったのは一瞬。けれどもそこに広がっていた光景は僕の体勢を崩すのに十分な衝撃を持っていた。

 談話室。落ち着いた色の木目を侵すように広がるのは毒々しいほどに赤い液体だった。床に広範囲に広がる赤の上で横たわるのは人間の体。そう、なのだ。首から上が消えうせた死体を視界に認めた僕は思わず足をもつれさせる。


「テイシ! 大丈夫」


 突如足を止めた僕は勢いを殺しきれずそのまま廊下に転んでしまった。床に倒れる僕に駆け寄るマコから声がかかるが僕の意識は、談話室の中へと向いていた。


「テイシ、どうしたの。いきなり転んで、って……きゃああああああああああああああああああああ」


 僕の視線に気づいたマコも談話室を覗き込んだようだ。そして悲鳴が上がる。


「マコさん、どどど、どうしたんですか。クビは!? って、うぎゃあああああああ」


 背後でもコロの悲鳴が、って。そうだ! クビは!?


 談話室へと視線をくぎ付けにされている二人の間を強引に抜け霊安室の扉の前へと這い寄る。扉の中に広がるのは淡い色で構成された一面の花畑。そして、その奥に備え付けられた扉が閉じる瞬間が目に飛び込む。クビがあの中に!

 


 回り始めた死の運命。僕らの戦いが再び始まったのだった。

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