ひとり暮らしにオススメな料理テレポーテーション器

ちびまるフォイ

家電を買うなら、第二世代から!

「こ、これは……!?」


ふらっと立ち寄った電気屋さんで見つけてしまった。

足を止めるどころか財布のひもをすでに解いてしまっている。


「お客様、お目が高いですね。

 こちら最近開発された3D料理テレポーターです」


「買う前提だが話を聞こう」


「ありがとうございます。

 使い方は簡単です、スイッチを入れるだけで料理ができます。

 レシピはネットからダウンロードして追加もできますよ」


「買った!!」


家に3D料理器を置くまでに1時間もかからなかった。


「よし、さっそく作ってみよう」


スイッチを押すと、ビーフシチューが出てきた。

見た目も完全に再現されている。すごすぎる。


「今度は……魚料理かな!」


材料の異なる料理のスイッチを押すと、数分ですぐに出てきた。

これまで時間をかけて料理のまねごとをしていたのが馬鹿らしくなる。


「これは……革命だ!! 料理の革命だ!!」


この素晴らしい家電を広めたいと進めたが、

値段の高さもあってかあまりウケはよくなかった。

買った人もすぐに「やっぱり自分で作る」などと言い始めるほど。


「くっそーー、世界で1人だけになったとしても

 俺はお前を使い続けるからな!!」


料理器には名前をつけてかわいがるほど、すっかり頼っていた。


今までコンビニ料理ばかりだったのにちゃんと料理を作るこの機械は、

いまや俺にとって女房と言っても過言ではなかった。


やがて、ひとりの家族として接しているうちに忘れていたことが起きた。


「あれ? なんだこれ? ギョウザ作ったはず……だよな?」


ギョウザのスイッチを数分前に押して作ったはずなのに、

出てきた料理はぐちゃぐちゃのスープ状になっている。


ここまで原形をとどめていないスープギョウザも存在しない。


「別の作ってみるか」


お好み焼きを作っても、うどんを作っても、カルパッチョを作っても。

どのスイッチを押そうが出てくるものはドロドロのスープだった。


「まさか……初期不良!?」


最新家電にありがちな初期不良。

毎日毎日使い倒していれば起きるであろう事態を見落としていた。


慌てて電気屋さんに持ち込んで修理を依頼した。


「ああ、こちらなんですが、実はもうサポート終了しまして……」


「そんなばかな!?」


いくつも電気屋さんを回ってみたが、最新技術を集めたものもあり

修理できる人もいなければ修理サポートもされなかった。


「うそだ……せっかく……せっかく、まともな食生活になったのに……」


ふたたびコンビニ弁当生活なのか。

エンドレスカップラーメンなのか。


暖かい食事を提供してくれる人(ロボ)はいないのか。




「そんなことないですよ」




「あなたは!? 家電量販店のやけに愛想のいい店員!!」


まばゆいばかりの後光とともに店員が現れた。

小脇には見慣れた機械を持っている。


「それは!? 料理テレポーター!?」


「いいえ、ちがいます。これは料理テレポーターmk2です」


「ま、マークツー!? それじゃ修理サポートを受け付けなかったのは……」


「ええ、新作が出るため旧式はサポート終了しただけです」


ぱあと目の前が明るくなった。

床には一面の花畑が広がり、天使が空を舞っている。


「mk2は使い続けても、もう壊れませんか?」


「ちっちっち。そんなのは当然です。

 だが、それだけじゃmk2はなのれません。新機能を入れています」


「新機能? 見た目は同じですけど……」


「なんと!! 健康サポート機能です!!」


「なんだってー!?」


脳天に雷が直撃して、花畑が散り天使が黒焦げになった。



「この調理器で作った料理を食べていると、

 なんと! 体が本来持っている力を最大限引き出すんですよ!!」



「それはすごい!! 使うほどに健康になれるんだ!!」


「今以上の健康ボディになれますよ」

「買った!!」


迷わず購入し、待ちきれなくなってその場で料理を試すことに。

どの料理でも同じ材料を投入口に入れてスイッチオン。


しばらくすると、料理が出てきた。


「すごい! 前よりも静かで調理が早くなっている!」


出来立ての料理を口に運んでいると、

だんだん口の中に苦い味が広がってきた。




「……あの、これなんだか粘土みたいな味がしますよ?

 前の調理器だったら、こんな味しなかった」



「よかったですね。失っていた本来の力が引き出されてますよ」

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