第2話

ぴろぴろぴろ〜

「ま、待って!」

駅のホームでアラームが高らかに鳴り響く。

駆け込み乗車は危ないのでやめてください。ポスターにもそう書いてあるし、ダメだとは自覚している。けれど、今まで小中高と通学10分圏内だった私には突然大幅に増えた通学時間に体が追いつかない。もっと眠っていたかったし、できれば朝ごはんも家でゆっくり食べたかった。

「え、新幹線で通うの?!」

親戚の人はみなそう驚いた。大学まで1時間半。それまでに自転車、新幹線、市電を使う。

「一人暮らししたくないの?」

別段、一人暮らしにそんなに憧れはなかった。家事を一人でやる自信なんかないし、体調を崩した時なんか誰にも看病されなんて耐えられない。新幹線通学なんてバカだと自分でも思うが、親は私を実家から通わす気満々だったし、抵抗する目立った理由もなかった。

新幹線に乗り込み、パウダールームへと急ぐ。カバンからポーチを取り出し、顔に粉を塗りたくる。

「女子大生なんだから化粧しないと」と祖母が買ってくれたコスメセット。女子大生。私は行きたくもない大学に新幹線をわざわざ使って通う女子大生。なのになんで化粧なんか。めんどくさい。そんな風に思いつつも「大学デビュー」なるものにも憧れていた。キラキラ女子大生。清楚で上品な女子。そういうものに私はなりたい。その結果、朝早く起きるわけではなく、こうして新幹線のパウダールームに駆け込み化粧を施している。はっきり言ってゴミである。

しかし私は「化粧をするし女子大生としてはいいスタートなんじゃないか」なんて思っていた。まぁ自分の通う大学をバカにしていたわけだし傲慢ぶりは健在だ。

「メガネからコンタクトにしたし、化粧もしてる。彼氏できるかしら」

入学式の気分の落ち込みとは裏腹に、楽しいキャンパスライフを思い描くようになっていた。

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タカハッピーな日々 @takahappy

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