6話目 この門を潜る者は一切の希望を捨てよ
森を切り開いた別荘地。かつては贅の限りを尽くしたであろう名残がある建物が連立している。人気はなく、鳥のさえずりや木々が触れ合う音しか聞こえない。
その中で、もっとも真新しい建物の前に私はいた。外壁は白く塗られ、門扉にはサビ一つない。数年前にリフォームされたのだろう。
「ここであっているよな…。住所は間違いない」
玄関の呼び鈴を鳴らすも反応はない。だが、私の胸ポケットにしまっているスマートフォンが短く振動する。確認すると、主催者からの短い「あってますよ」という知らせだった。
私は、息を一度だけ深く吸い込み、吐き出した。目の前にあるドアは、私にはダンテが描いた「絶望の門」と同じだ。この先には一切の希望はない。絶望もない。ただ、0に戻るだけだ。
しばらくのためらいを押し殺し、意匠が凝らされていたドアノブ握り、ゆっくりと押し込む。ドアは小さいきしみ音を立てて開く。地獄すら凌駕するであろう3ヶ月が待っているとは知らず、私は一歩を踏みだした。
水母 ~JellyFish Requiem~ 波図さとし @pazzotusuki
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