第15話 来訪者

 ふすまに写し出されたのは、黒一色だった。


「カナトくん、これ何?」

「おじさんが死んだ日、現場検証を終えてオルゴールは警察署へと運ばれたんだよ。分からないと思うけど、真帆さんが自宅に持ち帰っている」


 カナトくんが状況を説明すると、黒に光が射した。映し出されたのは、目を赤くした真帆。


「誠、何やってんのよ……。こんなの用意してても、ちゃんと渡してくれなきゃしょうがないじゃない…。何してんのよ…!」


 それだけ言って、真帆はオルゴールを回す。


 狂ったオルゴールの音が響く。奏は真帆の嗚咽に驚いたかのように泣き出す。


「カナトくん。いいよ。見たくない」

「耐えて、ここからだから」


(チャイムの音)


 誰かがやってきたようだ。多分隣の稲川さんだろう。夜遅くにこんな大声出していたら迷惑だよな…。それは、分かってるけど大目に見てよ。お願いだから、そんなにチャイムを鳴らさないで下さい。


「すみません!今出ます!」


 繰り返される呼び出しに、真帆はようやく気がついたかのように応じる。


(ドアが開く音)


 突然のことだった。不自然にオルゴールの音も、奏の泣き声も消え、真帆が来訪者に応じる声がする。


「夜更けに申し訳ない。高須具視と申します」


 この声は…まさか。


「おじさんを殺した男だよ」

「やっぱりか!真帆!逃げろ!俺はソイツに殺されたんだ!」


 しかし、映像の真帆は、不審がるどころか、頭を下げている。


「先ほどはすみませんでした。お見苦しいところをお見せして…」

「いえ、お気になさらないで下さい。それより、私も病院ではお伝えできないことがありまして」

「はい、なんでしょうか?」

「病院ではお伝えできなかったんですが、実はご主人を始めに発見したのは私なんです。すぐに搬送したかったのですが……」

「そんな……あなた医者でしょ!だったら、なんで助けてくれなかったのよ!」

「設備もない中で、動かすのは危険な状況だったので…。私の持てる権限を全て使って、救急車を急行させ、運び込まれたらすぐに手当てできる手筈を整えていたのですが…」

「言い訳なんて聞きたくない!なんで来たの!誠を…誠を返してえええ!!!!」


 哀願とも非難とも言える叫びを上げ、真帆は再び泣き崩れた。


「今日は帰ります。しかし、医者として心残りができてしまいました。何かあれば、お力になりますので。失礼します」


 そう言って高須は帰っていったようだ。


「高須、具視…。ふざけんなよ…。お前だろうが!俺を殺したのは!……許さない。絶対に許さない!」


 真帆が泣き続けている。俺は見ているだけだ。高須、絶対に許さない。


「おじさん、本当の最悪はここじゃない」


 そう言った。それは本当のことで、その後写し出されたのは最悪なものだった。そして、俺の怒りは、怨念に変わり、執着に変わる。


「アイツを…殺す」


 それが真帆と奏のためだ。

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