第14話 知ってほしい。僕が教えるから。
(ドアが開く音)
(風が吹き抜ける音)
「ドアが呼んでいるみたいだよ。どうする?」
カナトくんが選択を強いてくる。俺が死んでからを見せてくれるというのだ。また、ドアが開いたということは、俺に取って必要な何かが待っているということなんだろう。俺が選べるのは、ドアを抜ける前にカナトくんに"未来"を見せてもらうのか、もらわないのか……。それだけだ。
「正直言うと……。決めたくない。決められるもんかよ」
「どうして?」
「だってさ!知ってどうするんだよ!幸せならまだしも、辛い目に遭っていても俺にはどうすることも出来ないんだぜ!?それなら、幸せだと決めつけて、見ないほうが良いじゃないか!」
そうだ。決して変わらないなら、最初から何もしなければいい。出来ることをやればいいんだ。
「『知ってもどうすることも出来ないから知らない』。それでいいと思う。でもね、僕は謝らなきゃいけないことがある」
「なに?」
「おじさんが『許されれば変えられる』って言ったとき、僕は『多分、大丈夫』と答えた。それは、確証もない返事だったけど、僕にもおじさんと同じ気持ちがあったんだろう。知らないうちに、おじさんの願いに僕の願いを重ねていたんだろうね。自分では何のリスクも取らず、無断で身勝手に、僕はおじさんに「状況を変えて」と願ったんだ」
「いいんだよ、もう。終わったことなんだから」
「そして、さっきおじさんがドアをくぐったとき、おじさんにとって悪いことが起こると分かっておきながらも、おじさんを止めきれなかった。いや、わざとだったんだよ。おじさんが帰ってくる度に、僕はいろいろと知っていった。未知を知るということは、快感にも似ているからね。もし、おじさんがあの悪いドアから持ち帰ったものを視たとき、僕は一体何を知ることが出来るのか?そんな知的欲求を抱えていたんだよ」
「おい、カナトくん。なに言ってるの?」
「オルゴールを手にしたときに、すべてを悟った。おじさんがここに来た理由も、自分が何をするべきかも。結末は言わない。おじさんに視てもらいたい。全部がおじさんの決断だと突き放すのは簡単だけど、すべてを知ってしまって罪悪感は感じているんだよ」
正直腹がたった。自分の知的欲求のために苦境に立たせていたけど、さらに苦しめ。そんな風に言っているのと同じじゃないか。いくらなんでも、それはない。この子に従う義理なんてない。
「『許されなければ変わらない』。これは絶対だ。そんなことが可能ならば、すべてが許されてしまえば、何もかもが狂ってしまう。だけど『許す』っていうのは、全てにおいて過去に使われる言葉だ。過ちが去ることは許されることはない。過ちは過去と名付けられることで縛られ、残り続ける。その中で、僕らは『過去を視ること』が許されている。自分だけではなく、現存する形あるものを通じてならば、それが視てきた過去を知ることができる」
「いや、カナトくん。くどいよ。いいって言ってんじゃん」
「そして、未来には許すも何もない。そこに過ちはないからだ。誰かの過去を知ることで、僕らは未来を変えることができるんだよ」
(風の音)(ドアが閉まる音)
ドアの事情が変わったんだろう。閉まってしまった。俺がそっちに気を取られている間も、カナトくんは俺を見つめ続ける。
「だから、おじさん。知ってほしい。僕が教えるから。向き合ってほしい。2人の知られざる過去を、おじさんがいなくなってしまった2人に起きた真相を」
「知りたくないんだけどなぁ……。分かったよ」
15歳の若者の未来に掛ける熱に負ける形で、俺はうなずくしかなかった。それを見たカナトくんは「ありがとう」と微笑み、オルゴールのネジを巻く。
(オルゴールの音)
真帆が好きなカップ麺の硬さが図れればと思い、あれは2分30秒に設定したんだったな。しかし、ひどい曲だ。事故の影響でどこかイカれたんだろう。
調子はずれの旋律が部屋の中に響き出す。曲が進むに連れ、黄ばんだふすまに投影する形で、あの日が映し出された。俺が路上で死んだ、あの日に。
(オルゴールの音)
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