第13話 オルゴールは未来を紡ぐ

(風が吹き抜ける音)

(ドアが閉まる音)


 気がつくと、オルゴールを手にしながらドアを後ろに立ち尽くしていた。いつからこうしているのだろう。たった今なのか、それともだいぶ前からなのか。いずれにせよ、そんなことはどうでもいい。


「おかえり、おじさん。音がしたから…」


 カナトくんが語りかけてくる。それだけは分かった。


「どうしたの?おじさん」


 どうしたもこうしたもない。何も出来ず、自分が死ぬときを客観的に見ただけだ。意気込んでいったのにも関わらずこの様。笑えよ。


「おじさん?大丈夫?」

「大丈夫?おかしなこと聞くね。大丈夫なわけ無いだろ」


そう言った

  

 カナトくんに投げ掛けた言葉は、自分を表す言葉そのものであり、事実を受け止めろと自分に迫るものだ。無力感を増大させ、俺を床にへたり込ませるものだ。


「ちくしょう……。ちくしょう…。なにも出来なかった!ちくしょう!何も出来なかったんだ!俺は、俺は、ちくしょう!!!」


 床を殴りつけながら、何度もそう繰り返した。カナトくんは、黙ってみている。俺が落ち着くまで、彼は黙っていて。


(嗚咽)


 ×××


「落ち着いた?」

「うん、ゴメンね。みっともないとこ見せて」

「何があったの?」

「俺が死んだ。思い出は思い出のままで。どんだけ頑張っても変わらなかったよ」

「許されたら変わってしまうからね」

「カナトくんは他人事だな。いつも。まぁ、もういい。もう良いんだ、全部」

「らしくないね」

「変わらないものは変わらない。それより、将来を決めなきゃいけないんだ。方向を決めて頑張れば、望んだ将来に入れるかもしれないしな。そっちの方が建設的だ」

「どういうこと?」

「俺らは幽霊なんだ。だったら成仏するか、残って化物になるしかないだろ。どっちか決めるだけだよ」

「僕も幽霊なの?」

「あぁ、そうだよ……。それについては、俺は謝らなきゃいけないね。あの日、抱きかかえてゴメンなさい」

「なんのこと?」

「君は、あの日俺と一緒にはねられた猫だろ?カナトって名前の」


 カナトくんは、合点がいかないように首をかしげている。何だ?違うのか?


「おじさん、そのオルゴール貸して」

「あぁ。はい」


 俺のオルゴールを手に、カナトくんは驚きの声を上げる。そりゃそうだよな。自分を巻き添えにしたやつの心配したり、親身になって相談に乗ってくれていたりしたもんな。事実を知ってショックだろう。


「そっか、そういうことだったんだ。僕は、あの子だったんだ」


 カナトくんは、そう呟いた。


「おじさん、オルゴールはまだ視ているよ。おじさんが知らないことを」


 どういうことだ?その先を……視ている?あそこで死んでからの記憶?あるわけがない。ここに来たんだから。


「どういうこと?記憶の中から持ってきたものだよ? 俺が死んだら終わりでしょ?」

「僕の力は、物に形どった記憶を読み解くことだ。それは記憶を読み取ることに特化しているということに等しい」

「うん、知っているよ。でも、それじゃ未来が視える説明になってないよ?」

「言い換えれば、ここに来た形あるものが未だに現世に存在しているならば、僕はその物を通じて視続けられるということだ。イミテーションを通じてオリジナルが視ているもの視える。そんな感じだ」

「じゃあ、今まで持ってきたものが腐ったり、壊れて処分されたものじゃなかったら…」

「ゴメン。僕も今知ったんだ。そして、僕は知ってしまった。おじさんが亡くなった後の真帆さんと…奏さんを」

「何だって!?」


 真帆と奏の現在が分かる?いや、知ったからと言ってどうしようもない。


「ゴメン、知らなくていいや」

「それでいいの?」

「うん。死んだ今や、俺に出来るのは強く生きてくれと、一方的に願うだけしかないから」

「方向を決めて頑張れば、望んだ将来に入れるかもしれない。さっきおじさんはそう言った」

「そうだね」

「でも、その将来が望まないものだと分かったら、そして、変えられる可能性があるのなら……。おじさんはどうする?」

「何を言って…」

「今から驚くことを言うよ。僕はこの子が見ているものをおじさんに見せることが出来る」


 確かに驚くべき告白だ。カナトくんに言葉を奪われた、もしくは衝撃で言葉が吹き飛ばされた。そんな感じだった。


(風の音)

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