第11話 決意、その先へ

(風が吹き抜ける音)(ドアがきしむ音)


「マジか!? カナトくん、やったよ!」


 カナトくんは、どこか浮かない顔をしている。


「どうしたのカナトくん?」

「おじさん、止めたほうがいい。そのドアは……なんか良くない色をしている」

「へ?どういうこと?」

「僕はね、なんでも知りたいわけじゃないんだ。知らなくていいこともあるからね。そのときは、黒というか、マーブルというか……。どこかしら気持ち悪い色をしているんだよ」

「このドアがそうだっていうのかい?」


 カナトくんが首を縦に振る。


「でも、行かないと」

「ねぇ、おじさん。どうしたいの?」

「どういうこと?」

「生き返りたいとでも言うのかい?」

「そりゃそうだろ」

「それは過去を変えるってことだ。その力は途方もない。ねぇ、おじさん。その力はあるの?」

「そんなの……あるわけ無いだろ!でも、行かないと家族が泣くんだよ!」

「もしかしたら、そんなことないんじゃない? すでに、おじさんの死を、真帆さんも奏さんも乗り越えているんじゃないかな?」


 カナトくんはそう言った。物怖じもせず、はっきりと。その言葉を聞いて、俺の中の何かが切れた。


「そんなワケ無いだろ!娘はまだ赤ん坊だし、真帆だってひとりで生きていけるほど強くないんだ!」

「それって、おじさんが『そうであってほしい』と望んでいるだけじゃないかな?」

「黙れ!」


(ビンタの音)


 思いっきり殴ってしまった。しかし、カナトくんは揺るがずに、俺を見つめ返していた。驚いた。なんて子だ。


「そうじゃなかったら、真帆さんのことも奏さんのことも、甘く見ているということだよ。残された者は強くなるんだ」


(ドアがきしむ音)


「おじさんが決めれば良いことだけどね。でも、知ることは必ずしもいいとは限らない。目を逸した方が良いこともある」


 揺るがない。よっぽどのことが待っているのか。それでも…


「俺、行くよ。ゴメン」

「そう…じゃあ、手を出して」


 俺は右手を出した。カナトくんはその手を左手で握る。意外と大きいんだな。


「…約束だ。帰ってきてね」

「分かった。ちゃんと帰って来て、どうなったか話すよ。約束だ」


 それだけを残して、カナトくんは部屋に戻っていった。開きかけたドアの前にひとり。風切り音が、泣き声にも聞こえる。


「何があろうとも、俺は俺を助ける!未来を変えるんだ!」


 そう意気込んでドアの先へ足を進める。待ってろ、真帆、奏!俺は帰るから!


(ドアが閉まる音)

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