第5話 赤い花が意味するもの

(オルゴールの音)


 気がつくと元の部屋にいた。頭痛はなくなったが、少し体がダルい。それ以外には何の異常もないようだ。


「おかえり。 おはよう」

 カナト君はそう言った。


「カナト君……。君、何したの?」

「何もしてないよ」

「俺、気を失っていたよね?玄関を出てた所で」

「知らない。ここにいたから」

「俺はどうやって帰ってきたの?」

「普通に帰ってきて、ここで倒れたよ」

「どうだった?」

「夢を見てたよ。 若い頃の」

「そう」

「そのおかげで、少し思いだしたんだ。自分の名前とか。 俺は白川誠。オルゴール職人のみたいだ」

「そう。だからオルゴールの音が聞こえるんだね……。ところで、その花何?僕にくれるの?」


 カナト君が俺の右手を指差す。すると、手元に赤い花があった。意識を失う前に見た花だ。それはで今置かれている状況を、正しく、雄弁に説明するものだった。


 カナト君の言う通りだろう。これは誰のせいでもない。むしろ、人為的なものであってほしい。


 でもあり得ないだろう。思い出の中から何かを持って帰ってこれるなんてあり得るわけがない。


「チクショウ、なんなんだこれ!」


 そう叫んで、花を放り投げた。


 意図が見えない超常現象なんて不安でしかない。

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