第2話 準備、できたみたいだよ

(ドアがきしむ音に混じって、オルゴールの音)


 部屋に戻るも、少年は黙っている。空気を変えるために何か言いたいが、何も浮かばない。


「ムリだったでしょ?」

 ややあって、少年はそう言った。


「……あぁ」

「だから言ったんだ。 呼ばれないとダメだよって」


 少し怒っているようだった。


「ゴメン。君を疑っているわけじゃないんだよ。 でも、分かるだろ? ここを出たいんだ」

「呼ばれるまで待てばいいんだよ」

「いつまで待てばいい? ここ、怖いんだよ」

「準備が整ったら」

「君は何を知ってるんだ?」

「何も知らないよ」


 それを最後に、少年は再び話さなくなった。この子はなんなんだろう?何かしらの障害を抱えているのか?しかし、それがなんだ。


 こんなところに連れてこられたのに、俺を気遣って一生懸命に語りかけるなんて優しい子じゃないか。いつまでここにいなければ分からないし、何か起きたらこの子を守ってあげなきゃ。


「ねぇ、君。 名前は何て言うの?」

「カナト」

「カナト君か。 カナト君はなんでここにいるの?」

「あなたは?」

「えっ?」

「名前、何て言うの?」

「あぁ、俺の名前は……」


 俺は誰だ? 俺の名前、俺の名前、名前、名前、名前、名前……


(風が吹き抜ける音)


「準備、できたみたい」

「えっ?なに?」

「今なら出れる」


 カナト君が襖を指差す。先ほどのドアに行くと、あれだけ頑張っても開かなかったドアが少し開いている。


「誰かが、外から鍵をかけてたのか? 気持ち悪いな……」


 扉を開き、外へと出る。すっかり夜だ。灯りくらいつけろよな。


(ブラックアウト。オルゴールの音)

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