DOOR

波図さとし

第1話 知ってるんじゃないの? 僕は知らない


 古ぼけた畳、黄ばんだ襖。見るからに年季が入っている部屋で目が覚めた。窓から射す赤みがかった光は、夕方を告げている。問題なのは、ここがどこなのか、さっぱり覚えていないことだ。


「どこ……ここ?」

「気がついた?」


 声の方を振り向くと、見慣れない少年がいた。パーカーのフードを被っている上に、逆光で顔が見えない。誰だ?


「君は……?」

「ずっと寝ていたんだよ」

「君がここに連れてきたのか? 誰だ君は?」

「知らないよ」


 俺と同じなのだろうか。嘘を付いているようではないが……。


「どれくらい寝ていた?」

「たくさん……?」

「たくさんって……」


 まるで話が通じない。幼稚園児のような返事だ。



「俺はずっと寝ていたの? 」

「寝ていたよ……。ねぇ、おじさんがそうなの?」


 なんでこんなとこで寝ている? 何があった?冷静に考えよう。俺は確か……。えっ? 俺はなんだ?え? なんで?思い出せない。



「『そうなの?』ってなに? 君はなんだい? 何故ここにいるの?」

「知ってるんじゃないの? 僕は知らない」

「君の家じゃないのか?」

「僕は何も知らないんだ」


 悪い子じゃないみたいだが……。話が通じない。 俺と同じで、記憶を失っているのか? 少し不気味な子だな。


「とにかく、ここにいるのは良くない。 ここから出よう」

「ムリだよ」

「何で?」

「呼ばれてないもの」

「どういうこと? 呼ばれる?」

「呼ばれないと出れないんだ」

「誰に呼ばれるの?」

「知らない。 呼ばれたら分かるかも」


 何を言ってるんだ? もしかして監禁されているのか? 俺たちは拉致されて記憶を奪われている?


 マズイ。とにかく、ここにいるのはマズい。ここから出なければ!


「俺は出るよ!一緒に出よう!」

「ムリだよ。呼ばれてないもの」

「分かった!それじゃ助けを呼んでくるから、待ってて!」


 そう言って部屋を出る。

 早く警察を呼んで、この子を保護してもらわなきゃ! 少年よ、待っていろ!


 小さなキッチンが目に飛び込んできて、先に風呂場とトイレのドアがある。その直ぐ側に鉄製の扉が見えた。


 内鍵とワイヤーロックを外し、ドアノブをひねる。回らない。


「あれ、あれ?なんで? 回らない。なんで!?」


 ドアに生えている突起物を回している感じだ。しばらく格闘するも、状況は変わらなかった。


(ドアノブを激しく回す音)

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