同窓会で親友と再会してもイイですか?
新年の三日目、下吹越エリカは高校の同窓会に来ていた。
同窓会とは言っても合計二十人くらいのこじんまりした会だ。同級生の中にはエリカのように卒業後県外に出ていってしまった者もいれば、新年は家族で旅行に行ってしまう家もある。高卒や、短大卒で就職した者の中には三日の夜も仕事があるから来られないという者もいた。
そうやって来られないメンバーが増えると、「高校時代の仲良しグループのメンバーが参加しないから、私も参加しない」といったような連鎖反応が起き人数がまた減る。そういうことが積み重なって、同窓会は大体二十名から三十名が参加する恒例の新年会という形に落ち着いてきた。
下吹越エリカは関東の大学に進学して、地元を離れてはいたが、通っていた高校のことは大好きだった。友達も沢山いたし、思い出も沢山あった。年末年始、鹿児島に帰ってくる時に、こうやって一日で二十人という規模で会って、近況報告や思い出話などが出来るのは大変助かった。
同窓会の場所は天文館通の居酒屋だった。
卒業して四年も経つと、みんな成人しているので、お酒も全員が飲んで良い年齢だった。フォーマルな同窓会というよりも、気楽な同窓生の飲み会といった体だ。
「――では、久しぶりの再開と、新年を祝して、……カンパーイ!」
幹事の男の子が簡単な挨拶の後で乾杯の発声をすると、参加者たちはわらわらとグラスを持って部屋の中を移動し、一人ひとりのグラスとグラスをぶつけ合った。
部屋は完全な貸し切りの個室では無かったが、他のお客さんのスペースからは仕切られており、席と席の間の移動はしやすかった。ひとしきり動くと「みなさんそれではご歓談のほどを」という丸投げな幹事の司会により、同窓会という名の、普通の飲み会が始まった。
「やっほー、エリカ、久しぶり〜」
そうやってピーチフィズのグラスを片手にやってきたのは
「やっほ〜。久しぶり!」
下吹越エリカは、自分のグラスを持ち上げて応じた。
上村純子と下吹越エリカは中学校以来の同級生で親友だ。純子はエリカにとって、親友であると同時に、少し憧れる存在でもあった。裏表の無い性格で、明るく、頭も良かった。姉御肌なところのある性格で、面倒見もよく、一緒に所属していた吹奏楽部では、金管セクションリーダーを務めてクラブを引っ張っていた。
今は、地元の国立大学に通っている。
「どう? 大学の方は順調?」
「うん、順調だよ。でも、卒業論文大変だよねぇ。今、追い込んでいるところ〜。」
上村純子も大学四年生だ。だとすれば、エリカと同じく卒業論文に追われている可能性は十分あるだろうと、話題を振った。やっぱり、純子も卒業論文に苦戦しているようで、彼女もウンウンと頷いた。
「そっかぁ、卒業論文は大変だよねぇ。これまでやってた勉強のスタイルと全然違うし」
「そうそう。自分で調べないといけないこと多いし」
エリカも手元のシャーリーテンプルを傾ける。グラスの中の氷がコトリと動く。
「エリカのところは締め切りいつなの?」
「ん? うちは二月の頭かな? 実質的には1月一杯ね。みんなそのくらいなんじゃないの?」
卒業論文は最後の試験みたいなものだから、エリカは、どこの大学でも大体同じくらいの締め切りなんだと思い込んでいた。
「いいなぁ〜。ウチなんて一月十五日だよ〜。あと、二週間!」
そういって純子は指を二本立てて見せる。
「早っ! 早すぎない?」
「そうでも無いみたいよ。何だか、大学によっては卒業論文の提出が十二月中ってところも有るらしいし」
「へ〜」
そんなに大学ごとに締め切りが違うだなんて知らなかった。しかし、十二月中っていうのは早すぎる気がするが、現実的に可能なのだろうか……。
何れにせよ、純子はこの同窓会が終わったら、明日から卒業論文執筆の追い込みモードになるのだという。
エリカは自分もあと二週間後にはそうなっていないといけないんだなぁ、と思う。
卒業論文のテーマの性質上、十一月と十二月は多くの時間を、データ収集のためのプログラミングの勉強に割かざるを得なかった。そういうわけで、今のところエリカの卒業論文はデータの収集と、分析方法の検討しか進んでいなかった。
(私も明日から卒業論文モードに復帰しないと不味そうだなぁ)
エリカは
その後も、純子とは、今日来れていない仲良しのメンバーの話や、卒業論文のテーマの内容について紹介しあったりした。純子の卒業論文のテーマは英語教育の手法に関する研究だった。エリカが自分の卒業論文のテーマについて紹介すると、純子は「なにそれ、すごく面白そう! エリカ難しいことやってるんだね〜」と興味を持ってくれた。エリカはちょっと嬉しかった。
しばらくして、純子は二杯目にオーダーしたジャスミンティーの入ったグラスを置くと、ポツリと呟いた。
「エリカ……、なんかあったでしょ?」
エリカが驚いて純子の顔を見ると、純子もエリカの方を見ていた。それは真剣に心配してくれている表情だった。
「な……なんで?」
「だって、何だか元気ないもん。私にとってはエリカって何でも顔に出て見えるから、スッゴイわかりやすいんだよ」
戸惑うエリカに、純子は「何年親友やってると思ってんのよ」と笑って、肘で小突いてきた。その笑顔にエリカはぐっときた。だめだ、涙腺が緩んでしまいそうだ。
「もしかして、恋愛関係……?」
無くなりかけたシャーリーテンプルをじっと見つめるエリカの顔を、純子は覗き込んだ。エリカは、否定するようにフルフルと首を左右に振る。
「じゃあ、なんだろう?」
純子はエリカに発言を委ねるように、自分のジャスミンティーを口に運んだ。
「……友達関係かなぁ?」
「そっかー。友達関係かぁ〜。……向こうの大学のんだよね?」
「うん……」
エリカは純子には敵わないなぁ、と思う。
いつだったか、吹奏楽部のメンバー間の人間関係がこじれた時も、こんな感じで話を聞いてくれたことがあった。あの時みたいに、話せば少しは楽になるかもしれない。
「……聞いてくれる?」
「もちろん。話せばちょっとは楽になるよ。向こうのことなら力にはなれないかもしれないけれど」
そう言って、純子はエリカの頭を左手のひらでポンポンと優しく叩いた。
エリカは話し出した。「エロラノベ作家」と出会った夏の終わり、そして、クリスマス寸前に起きた出来事を。
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