第七章 鴨井ヨシヒト
天使を見つけてイイですか?
僕はこの世界に天使を見つけた。
そのことについて少し報告しようと思う。
僕の名前は
周りの奴らの多くは、大学四回生で卒業し、一般企業や地方自治体なんかに就職するが、僕は違う。
僕はそういう世界とは一線を画する世界に身を投じようと思っている。研究者の世界だ。
もちろん、国際的に活躍する研究者の世界に厳しい競争があるのは分かっている。でも、僕はやり抜くつもりだ。
だから、学部で中途半端な気持ちで卒業研究に取り組んでいる奴らを見かけるとイライラする。あいつらは騙し騙し卒業論文を書いて、卒業さえ出来ればいいと思っている。ゼミの活動もただの腰掛けだ。
就活が終わったあとのあいつらは、恋愛だの、ファッションだの、旅行だのに精を出す。
リア充爆発しろ。
え? 勉強以外は何をやっているのかって?
それに対する答えは、結構、普通かもしれない。アニメ鑑賞とゲームかな。
例えば「ラブ○○ブ」の音ゲーは随分とやりこんだものだ。アレは神ゲーだった。きっと皆さんご存知のことだろう。テレビCMもやるぐらいに成功しているスマホゲームだ。去年、新シリーズが出た。もちろん、今やっているのは新シリーズの方だ。
一部から、あの神ゲーが商業主義だって叩かれているのは知っている。しかし、そんな批判を差し置いても、あの神ゲーは偉大なのだ。マルチメディアミックスやユーザを巻き込んだ展開をしていく上で、あの商業主義的態度は必要な要素だったと考えている。
ユーザ数も圧倒的に多いので、知名度も高く、うちの学部の講義室を覗いてもやっている奴は多い。でも、その大半はニワカだ。まぁ、音ゲーというのは、始めるのに敷居が低いのでニワカが量産されるのは仕方なかろう。しかし、僕みたいに極めている人間はそうそう居ないのじゃないかな? 僕は全国ランキングはBEST10に一ヶ月近く載っていたことがある。垢バレしたくないので、ここだけの話だけどね。
「ラブ○○ブ」の凄いところは、2.5次元の世界を、まさにこの世に確立したことにあるんじゃないかな。声優とアニメのキャラクターのリンクはこれまでも何度も張られてきた。しかし、「ラブ○○ブ」の成し遂げたことは、アニメ史、サブカル史を振り返っても例を見ない。この一大ムーブメントを起こしたのは「ラブ○○ブ」の偉業であり、スマホゲームの「ラブ○○ブ」はそれを支える重要な装置なのだ。
フフッ、我ながら、社会システムの研究者の卵らしい表現ではないか。
まぁ、実際に、僕が大学院に進んでからやりたい研究は、こういう感じでサブカルチャーのこの世の中での役割について考えることなんだよ。まぁ、親にも言ってないし、ここだけの秘密なんだけどね。
高校生の時に、東浩紀の思想に影響を受けたんだって言ったら、ゼミ配属の時に、他のメンバーは「誰それ?」って感じだった。本当に、周りの意識が低くて嫌になる。もうちょっとレベルの高い大学だったら違ったのかな。
もちろんMMORPGなんかも嗜んでいる。あれはゲーム世界やサブカルを論じる上で必須科目だろう。これからはもっと
最近は「小説家になりたくて
ライトノベルと言えば、最近のお気に入りは
ペンネームのセンスからして、なかなかシビれるものがある。その名字でラブコメディもしくは純愛を手がける作家だということがわかる。さらに、下の名前の漢字を英語読みするあたりで、ベタなファンタジーモノを押さえられることを表している。ペンネーム自体に作者自身の戦略性の高さが伺えるというものだ。
何よりも衝撃的だったのは、一作目「アルファ・ノクターン」から、二作目「
合計十万部に迫る勢いという数字が、それを証明していると思う。ライトノベルは純文学ではない。ユーザの欲望に訴えつつ、それでいて日常を頑張ろうと思わせる、爽快感やカタルシスを与えるのが王道だ。
たしかに、「聖☆妹伝説」に、もう少しでR18指定に行ってしまいそうな過激な表現が含まれていることは認めよう。しかし、一般向けの作品で、あそこまでの表現に踏み切るのは作家としてのリスクを伴う。そこに僕なんか通な人間は「作家の覚悟」のようなモノを感じるのだ。
ちなみに、ネット上ではエルフのナターシャ推しの読者が多いが、僕は俄然、女魔法使い推しだ。一巻のキスシーンは圧巻だった。
え? お前、二次元の女の子の話じゃなくて、三次元の女の子の方がどうなんだって? お前みたいなオタクは、気になる女の子一人居ないんだろう、って?
君は本当に失礼な奴だな。
そうだ。「聖☆妹伝説」といえば、僕が見つけた「この世界の天使」について話さなければならないだろう。それが、きっと、君への答えになる。
正直なところ僕は三次元の女という生き物にあまり興味がない。正直なところ二次元の存在こそ至高だ。まぁ、二次元の存在は至高すぎるので、結婚も生殖も出来ない。いつか僕も、生物界の自然の摂理とやらの前に屈しないといけないとは思うのだが、それまでは二次元の至高の女性達に奉仕していければと思っている。
それはさておき。
そんな僕でも、三次元の女達との接点を持つことだってある。
四年生になって僕が入ったゼミは、上叡大学総合人間科学部のカリスマ教授とも呼ばれる南雲仙太郎先生のゼミだ。サブカルチャーに関する社会システム論を専門にしたい僕にとってこのゼミのテーマは最適だった。また、二年生の時にとっていた南雲仙太郎先生の「社会システム概論」の講義もわかりやすくて面白かった。南雲仙太郎先生は時々、雑誌に記事が載っていたり、学会やシンポジウムでの招待講演もあるなど、気鋭の研究者としても知られている。
そんなこともあって、先生のゼミの人気は高く、成績が良くないと配属は難しいということだったが、そんな心配は下々の人間だけの悩み事だ。僕の成績は学年で上位十パーセントには余裕で入っている。当然のように、僕はレベルの高い南雲ゼミを希望し、当然のように配属された。
ただ、
とはいえ、いくら死ねば良いリア充だといっても、十分な研究業績のある先生である。研究業界に於いては大先輩だ。そこは僕も尊敬の念を忘れない。
ただ、僕が専門にしようとしている、サブカルやゲーム、ライトノベルなんかについての実体験に基づいた教養なんて、あんなリア充先生は持ち合わせていないだろう。先に述べた「
問題は、ゼミに配属されてきた
……そう思っていた。
でも、その中でも、一人、そうじゃないんじゃないか? と思わせる女性を僕は見つけたんだ。
その女性の名前は下吹越エリカといった。
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