0-2



――平和な日常が欲しい。


 物心ついて、戦場に出るようになった頃から俺はずっとそう思っていた。


 とにかく平和で戦争なんか無くて、こんな特別な能力なんか無くて、手ぶらで外に出ても大人達に怒られない世界。

 そういう世界に行きたい。そういう世界になればいい。

 世界が平和になるにはどうしたらいい?世界を平和にするにはどうしたらいい?戦争をなくすにはどうしたらいい?


 こんな戦争だらけの世界で、俺はそんな馬鹿げたことを考えながら日々を過ごしている。

 殺さなければ殺されるという、狂った世界で人殺しを続ける日々を。


 この世界はおかしい。


 人を殺せば誉められる。

 国のためと自らの死を選んだ人は敬われる。

 命は大切にしなきゃいけないのに。

 そんな雑に扱っていいものではないのに。


 親は俺を誉めてくれる。仲間は、上官は俺を誉めてくれる。

 敵兵を沢山殺し、俺の服が返り血で染まれば染まるほど。

 人の不幸で自分の幸せを手に入れる世界。

 人の幸せを奪って自分が幸せになる世界。

 そんなのおかしい。間違ってる。

 精霊戦争何て名前の馬鹿げた戦争のせいで、精霊共のせいで多くの人が殺される。多くの人が殺させられる。


 全部、この忌しい能力のせいだ。


 あの日、世界は変わってしまった。

 突然空に現れた《大精霊》が告げた言葉によって。


――我々がものを言う世界をここに。


 その一言で、まず百人が死んだ。

 ここで死んだのは、精霊に対し対抗を全く持っていない人達。


――我々の器をここに。


 二言目で、五十人が人外へと変貌した。

 ここで変貌したのは、精霊への対抗力が特別強い者達。


――選ばれし者を、ここに。


 三言目で、人外へ変貌した五十人のうち四十人が死んだ。ここで死んだのは、変貌した五十人に大精霊が与えた強大な精霊が耐えられなかった者達。


――この者達が競い合うことで成す世界をここに。


 四言目で、その十人に広大な能力が与えられた。ここで与えられた能力は、所謂個性。


――この者達を頂としまとまった集団を国とし、その者達が争う世界と力をここに。


 五言目で、三十億人が死んだ。ここで死んだのは、人以外の何者にもなれなかった者達。


 ………………………。


 突然の出来事に、数々の反応。

 悲鳴。怒鳴り。泣き声。

 大精霊に向かって怒鳴り散らす人、力が抜けその場に崩れ落ちる人、泣き、喚く人。

 色々な行動をとる人達。

 それを、大精霊という名の死神共は楽しげに眺めていた。


――願わくば、また会えることを楽しみにしている。


 そんなふざけたことを言って――

 大精霊は消え、空が赤く染まった。

 叫び声。怒鳴り声。泣き声。




 選ばれた十人はそれぞれ別々の空間で好きなように国を作り、人々を受け入れ民とし、自らの能力を分け与え。

 領土を広げるために国同士で争い、同盟を組み、裏切り。

 そんなのの繰り返し。

 馬鹿げている。

 なんで命を奪い合わなければいけないのか。

 あの死神共は何をしたいんだ。何が目的だ。

 あいつらのせいで、いったい何人が死んだか。

 あいつらはわかっているのか?

 せめて目的を教えて欲しい。少しでも納得できるようなものを。

 じゃないと、俺は……あいつは――


 不意に、後ろから爆発音がした。

 過去のことに思いを巡らせていた思考を現実に戻し、全力で走る。

 敵軍の攻撃。

 翼を持つあいつらは空を飛びながら攻撃してくる。

 俺は近くにあった岩の影に隠れ、銃の弾を詰め替えて構える。

『そちらに今天戯簇の増援が向かっている。見つけ次第全て打ち落とせ。捕獲して情報を聞き出す』

 通信機から司令官の声が聞こえてきた。

 俺は、了解、と返事をして深呼吸をする。

 天戯簇が、こっちにくる。

 翼を持ち空を飛べる種族。

 空から光線を打ち込んでくるため戦いにくいが、銃で翼を撃ち抜いてしまえばあとは落ちてきたところを捕獲できる。


 ゾォォォォ


 空の向こうから、音がした。

 天戯簇が来たんだ。

 俺は同じチームのメンバーとアイコンタクトをとってから、銃を構え直す。

 深く息を吸って、呼吸を止めた。

 やつらは耳が良いため、呼吸の音で気づかれてしまう。


 ドォォンン


 前方で、爆発音がした。と同時に俺は手をあげ、攻撃の合図を出した。

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