絶望論(4)純粋だった
『どうしたんだよ……』
暗がりのなかでな。
俺にのしかかる、あいつの、――シロの気配を感じながらな。
俺は、そう言った。
たぶん、こいつも、なんかしらつらかったんだろうななんて、甘っちょろすぎる、気持ちをもってして。ああ、ああ、――甘すぎる、砂糖菓子よりはるかにずっと、甘すぎる。女どもが夢中になるスイーツとやらを、……俺は、否定できねえほどの、甘さ、甘っちょろさ、おめでたさだよ、――ほんとうに。
あのときの俺はもっとずっと純粋だった。
あいつらのことも、ほんとうは人間というにもおぞましいだけのあいつらを、純粋に仲間だと思っていたんだ。
国立学府に来るまで全員いろんなことがあったというのもなんとなく察していた。――優秀なやつというのはな、それだけで苦労するの。わかる?
シロはなおさらそうだと思ったよ。
俺にとっては、もっとも近い友達なんだって、思ってた。
いつもは明るくて、飄々としてるけど、たまに見せる仕草に陰があってさ。
ああ、これは、俺が抱えてきたモンと同質なんだって思ったんだ。
思ってたんだよ。……わかるか、優秀なヤツ同士にしかわからなかったことなんだよ、それは。
……でもな。
そういうふうに思い込んでいた俺のほうが、きっと間違ってたんだろうよ。
なにしろ、めでたい。
自分自身は身体は間違えたけど純粋に男だし、ほかのだれがわからずとも、こいつらだけは俺の、俺の――ほんとうのすがたを知っていて、認めてくれて、受け容れてくれると思ってたんだからな。
悩みを話してくれんなら俺たちもっとわかりあえるだなんてな――わかりあえるわけ、ないだろう?
あいつは、あいつはただの、……ケダモノだった。
人間じゃ、なかったんだ。人間に、見えたのに……仲間なんだと、思ってたのに。
あいつは、答えなかった。
ただ、吐く息が熱くてさ、
ごめん、ごめんって言ってんのは聞こえたんだよ、だからさ、――なにがよって、
『深夜だけど、海岸にでも行くか。俺らもっとわかりあえるだろって、』
言った瞬間――こんどこそ、唇を、塞がれた。
……他人の唾の味が、したよ。マズくて。マズくて、かなわねえの。
唾だなんて、吐きかけられるのだって御免じゃねえかよ。
マナーのねえヤツが道に吐きかけてんの見るだけでオエッとすんだ。
そんなん、口によ、直接されてみろよ。
やらかい女のモンなら、そりゃそれでいいよ? 俺、身体はこんな女だけど、恋愛対象も性的対象も、女だし。――普通のことだろ? 男ならさ?
女にされるんだったら、まだ、マシだったけど、だって男がさ――
……おい、苦笑してるやつら、ぶっ殺されてえのか。さっき自分は人間って認められたからって気ぃ抜くんじゃねえぞ、このバカどもが。人間未満といっしょにしてやんぞ。人間の定義なんてな、いくらでも変えられんだよ。人間未満にされてえのか。僕のつくる社会で、苦笑したやつら、おまえら全員奴隷階級に――
……あっ。笑うひと、いなくなりましたね? にゃーん。猫ちゃん、嬉しいっ!
そうそう、そうそうそうそうだよお、ひとのお話は、笑わず聞こうね? 自分自身にたまたまね、ほんとにたまったま、降りかからなかった理不尽だからって、そういうのをおまえらの、ふっるーい、カビ臭い、内臓から腐ってくような醜い悪臭のするような一般常識で、決めつけていくのやめようね? ……私が女に見えますから、女の子が好きってことが、おかしいですかあ? ――おまえら技術が発達したあかつきには自認している性別と無理やり真逆にしてやろうか? そんで、同性に無理やり犯されればいい。あはっ、――それまでの自分がぜんぶ変われちゃうような、なっかなかできない体験さあ、できるって、思うよお?
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