絶望論(1)そして、犯しは開始した
唐突だった。
もう、ほんとに、とんでもなく唐突だったんだよ。
電気を消したの。
十二時を少し回ったとき、だったかな。
ちょっと早すぎないか、ってそこはかとない不満めいた気持ちがあった。徹夜で仲間と酒盛りとか憧れてたんだ。僕は、そういうのやったことなかったしな。高校だって、……こんな身体のせいで素直につきあえる友人なんてだれひとり、できなかったし。
でも、けっして不満ではなかった。だってその日に早く寝ることは次の日の朝っぱらからの海水浴に備えるためでもあったし、……すくなくとも僕はそう思っていたし、そもそもさあ、眠かったんだよ、あの状態で明け方までとか無理だと思った、それに旅行は四泊五日もあるんだぜ? こんな楽しい夜が、あと三回も来るのであれば。初日なんだしわくわくで胸をはちきらせながら寝ちまおうと思ったんだ――ああ、そうそう、僕の胸は見ての通り一般女性の標準的サイズだよ、この背丈にしちゃふつうにあるからボリューミーに見えるかな――。
……ともかくさ。
おやすみー、っつって、電気を消したんだ。
僕は布団を引き上げて、まだ暗闇に慣れない目で天井を見上げて、あろうことかね、――ちょっと笑ったんだと思う。
しかも、酔狂なことを考えていたよ。ああ、いましたさ。
……海では、いちおう身体性別的に胸の隠れる格好で水をかけあっただけだったけど、俺ももうコイツらとなら素肌でいいかな、って。
パンツ一丁になってさ、それで遊んでもいいかな、って。
……男同士なんだからさ、って。ああ。僕は馬鹿だね。――信じられないほど愚かだったな。浮かれていた。もう、あんなことは……生涯、しない、させない。
……友達だ、って。そう思って、僕はもっかいにこっとしたんだ。目をつむった。さぞかし穏やかな顔をしていたんだろうな、そのときのおバカで能天気で幸せだった僕は。いますぐ眠りにつけるといいのにと思った。いますぐ、朝が来ればいい。そうしたら、――また友達と楽しく遊べるのにな、って。
ああ。そうだよ。
当然、いまは殺したいよ。
あのときの俺自身と、いまの法律では裁ききれないあいつらたち。
でも、あのときには殺意なんてあるはずもなかった。
もちろん、予感さえもなかった。
そう。――暗い部屋。
幾人かが、もぞ、もぞと動いたほかには気配のない部屋。
そのわりに、いろんな気配に満ち満ちた外の感じ。なにせ無人島だ。島だ。自然だ。街とは、都会とは、ワケが違う。よく知らない鳥が夜鳴きをして、よく知らない獣が唸り声を上げていた。カサコソといってた音はアレは、虫だったのかね動物が移動する音だったのかねそれとも、単に風でも吹いていたのかね。あんがい、ゴーストだったりして。……そういうのを翌日尋ねようかな、って思ったんだ、……あいつらのうちの一匹、虫に詳しかったから。や、じっさいにはね虫博士、――あいつ自身が気色の悪ぃ害虫だったわけだけど。
……ああ。
どうも、感傷的になって、いけない。
あのときの、光景は。
……つらすぎたのかな。
どうも――小説みたいに、思い出しちまうんだよ。
半ばまどろむなかで視線を上げれば、当時の仲間うちでもいちばんの親友、明るく気さくなイケメンくん、人間だったころのシロが、仰向けの僕の身体に乗馬するみたいにまたがっていた、その表情は、暗すぎてまだ見えなかった――。
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