本論(5)高柱猫の黄昏「自分から、加害者になったんだよ。しょせんアイツらは強者でしかなかったんだ」

 ……夜だな。

 ああ、そうさ、――夜だったんだ、あれは。




 けっきょく、

 夕暮れのきれいな海を臨んで、バーベキューをした。

 ひとりの男が、バーベキューセットを持ってきていたんだ。じゃーん、なんて得意げに見せてさ、みんな驚いたんだ、……僕はみんなで驚いたつもりだったけど、

 いまならそれさえ疑わしいよな――だってすべては、事前に仕組まれていたことだったんだから。僕以外、……全員で。


 猫がもしかしたらそう言うかと思ってさなんて、アイツ、……調子いい冗談ばっか言うなよってあの汚らわしい頭を叩いて僕はからかったよ、だってそうだろ? 僕が海がきれいだからってここでメシ食おうぜみたいなのさ、そんなのわかるわけないじゃん、わかったら予言者じゃん。まあ、なんかそういうアヤしい風采ではあったけどさ――いつもヘラヘラ笑ってて。そのくせ、僕を、……犯すときにはほんとうに気持ちよさそうで、笑う余裕さえもなかったんだろうなあ、ああ、あいつ、――アイツら、殺してえよ。ほんとに。いまこうしているあいだにも、いますぐな。




 ……ああ、いや、だいじょうぶ先生。耐える。僕、耐える。俺、耐えるから。……だいじょうぶよ? ほら、にゃんにゃん、だいじょぶでしょ私? にゃんにゃんっ、……なーう、にゃんっ! ……ほれ、どうだろ、こういうのお気に召しましてだろう? 肉球ポーズもおまけでつけてやろっか? ほーれ、ほれほれかっわいいだろ私? なあ? ――だからそんくらいのおフザケする余裕はあるっつってんの、そんな顔すんなきもちわりいな、ちゃんと発表するって俺なんども言っただろ? ほーれほれほれにゃんにゃんにゃん、どうだどうだよ、――先生、よお。





 ……そんで、そのあとは。

 あの、バンガローに。いや、掘っ建て小屋に。いやまだ表現が生温なまぬりぃよ、――あんなのただの家畜小屋だ。

 ……アイツらが、ケモノとなった五日間。





 ……コイツらを豚みたいに生涯ここに閉じ込めて、――飼ってやれればさあ、どんなにか、……どんなにか俺は救われるかって……思ったよ。






 ……まあ、とにかく。

 初日はさ。俺、おめでたくてさ。なんにもわかっちゃ、いなかったわけだから。





 みんなでウノしよーぜ! つって……トランプもして……持ってきた酒やらつまみやらでもう大騒ぎだよ、世界大学ばんざーいだなんて叫んだっけなあ、俺たちゃみんな世間からしちゃ充分優秀すぎたけどさ、まあ実態なんてこんなもんだぜって、世間サマの目に晒されてるうちは優秀な若者たちだしそういうのわきまえている、当たり障りない笑顔でいっつも世間に対応するもんだけどよ、……いちどそんな自分より劣ったヤツらばっかの世間の目から離れちゃえば俺たちなんかただの若者だぜ大学生だぜってな、





 ……そういうのってな、相対的に優秀とされてるヤツらには、なぜかいつもある鬱憤なんだよ。

 よお。わかるか? この会場の人間サンたちだって、ここにいるってことはそれなりになんらかで優秀なんだろう?







 ……期待されたロールプレイのしがらみから離れて、優秀な俺たちはホントはただのひとりの人間なんです若者なんですってさあ、言いたくなる気持ち――あるだろ? なあ、優秀者さんたちよ。






 ……それほどまでの、どんちゃん騒ぎだったんだ。

 ……ここまでは、僕は、だからただそういうイベントとしか思ってなかったんだ。




 ……でも、言えることは。

 いくら、あいつらが、たとえグローバルに期待される優秀な学生であり、それにより、なんらかの負のデッケえもんを抱えていたとしても。







 僕は、あいつらにはもういっさい同情しない。

 憐憫もしない。救いも、しない。

 自分から、加害者になったんだよ。しょせんアイツらは強者でしかなかったんだ。僕の、気持ちなんて、――最初からわかろうともしていなかった。

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