本論(3)高柱猫の発見「だから、僕を犯したくなったのかな」
夏休みのさ。八月のさ。下旬のころの、ことだったんだ。
ホラ。海ってさ、くらげ、出んじゃん? 夏休み真っ盛りシーズンっていうのはさあ。
そのぶんその時期のほうが若干割高だったりするワケ。
だからあえてその時期ズラして旅行に行ったんだよねえ。
まあべつにいまなら僕、研究費もあのころよりはずうっと降りるし、ゼニなんて気にしねえんだけどさ。……え? なんすか、質問? ああ、いいですよ、アナタはいまんとこ人間未満認定してねえですからね僕。……研究費って旅行に使っていいのか、ですか? ……ハー。抜け目ないですねー。うん、うんうんー、いいよー、いいですようにゃんにゃーん、……そういう抜け目のなさが人間存在ってとこあるし、ハハ、……きもちわりいけど。
そのクソつまんねえ質問にそんでも人間相手だから答えんならさ、世界大学ナメてんじゃねえぞほんとに、生活費だって娯楽費だってコミコミなんだ、それをまあまあデコレートして研究費って、呼んでんの、――だってそうじゃなかったら十数年前のこの国みたいに将来有望な院生とかに最低時給でバイトとかさせるワケ? ……ダッサ。
うん。でもさ、僕はそのころは、まだ試験的なピカピカのいちねんせえだったから、そこまでのゼニはなかったワケよ。
それは、アイツらもそうだったし。
だからくらげが出はじめる、そんなミョーな時期に、……四泊五日の旅行を決めた。
……俺が、大学、入ったときだから。
七年前、か。……にせん、じゅう、はちねん。
……2018年の、真夏にね。
八月にね。
……五日間、ね。
……一生ぶんの白濁液を見たよ……。
一日めに、僕たちはその無人島に着いたんです。
無人島といっても、観光用に開放されている無人島でね。つまり無人島というていで、じつは人間サマサマにぜんぜん管理されちゃってる、すんげーカワイソーな島なんですけど。
まあでも人は住んでないし、……こっちから呼ばねえかぎりはだあーれも立ち入らないってーのもそうだったし、カネってこええな、たかだか十代終わりのケツの真っ青なガキでも、カネさえ払えば、五日間も島を占有できるんだぜ。
ギャアギャア騒ぐ俺たちの船だって文句言わず操縦してくれてんだ、カネ、払ってっからな、……ヘンなはなしだ、あの船長さんなんて僕の両親よりもずっと歳が上のはずなんだ、酸いも甘いも噛み分けた、かもしれないのに、――カネとかいう実体ないもののその価値さえポンと渡せば時間限定の奴隷になるんだ。資本主義って、俺、やっぱどっか……ヘンだなって、思うけど。
……うん。そうだな。……そうだ。あの旅行は、……そうだった……。
……ああ。……あああ。……ああ。……キッツいなー、ハハ、……そろそろ、楽になってくれよ、僕……。
……はー。……けど。……語るぞ。
人間定義をやりなおすんだ……そのためのプロセスなんだよこれは、なあ。
がんばれ、猫。……おー。
一日めの、陽が沈むまでは、ただただただただふつうに、ほんとうに、楽しかった。
くらげが出るし、……僕はこんな身体の素肌を晒したくはないし、海水浴はもとから予定になかったんだ。
でも、みんなでさあ、透明感あふれるすんさまじくキレーな液体の、浅瀬でさあ、遊んだわけ。
まあありがちなヤツだよ。水、ばっしゃばしゃかけあってさ。きゃーきゃーあははーとか、ゆって。
……船のときから、気づいてた。
僕の歓声だけ、……浮いてて、……甲高くてうっるさいことに。
僕が、……僕じゃなかったら、あんなオンナの声のヤツはぶち殺したいって思うかもな、……ああ、……もしかしたら、……はは、だからだったのかな、
アイツらが僕をぶち犯したいって思ったの、ねえ、……そゆことなんですかね?
……なーんて、俺はだれに問うてんだか……ああ、いい、いいです、――人間のみなさま相手だって僕のこんな問いの答えなんか期待してない、ああ、……期待していないとも。
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