本論(1)高柱猫の告白「あの、俺、……そこまで心穢れてない。穢れて、なかった。……ホントだよ?」

 アイツらは最悪でした。

 俺の友だちのふりをして、俺に近づいてきました。


 大学のね。同級生だったんですよ。

 入ってね。すぐにね。

 席がおとなりで。たぶん俺が……見た目がね、カワイイからでしょうね。ソイツ、けっこー、イケメンでしたし。

 ま、最初はさ、冷たくあしらったワケ。……どーせ俺のコト、かわいー女子として見てんだろ、ってな。


 俺まだあんときはこーやってふざけて、ふざけた、甘いロリロリィとか、着てなかったんすよ。こう、マスクしてさ。だぼだぼセーターにジーパンでさ。……そんでも俺はどうしても背丈が低いし、声が甲高いし、どーしょーもなかった。ホルモン剤でもどうしようもないレベルだなって自分で判断したから、もう、それしかなかったんだよな。……そもそも俺んちけっこーな貧乏でさ。子だくさんだったし。世界公立だから学費安いとはいえ、それが限界だったんだよ。ホルモン剤だなんて……そもそも望める環境じゃなかったんだな、俺は。

 かといって妹たちの学費を奪うわけにもいかねえだろう。だから俺は、諦めていたんだな、……いろんなことをな。

 大学でさあ、ダチ作ろうとかも思ってなかったワケ。男相手だって、女相手だって、……俺が女であることを隠してつきあう人間関係ほど、つれえもんも、ねーんだよ。


 けども、そいつとはな、なんかやけに話が合ったんだ。

 オンナとしてってか、純粋に学問の友として見てきてるような、気が、……したんだ。


 ……俺のことあんなにあんなにあんなに犯しまくったあとにさあ、

 俺がさあ、そのことさあ、ゆったらさあ、

『ごめん。最初は、ほんとに友だちのつもりだった』とか、ぬかしやがりましたけど、……ハハッ。


 そんで……そのまま昼休みに食堂行ってさあ。ソイツのお仲間がみいんな、いてですね。

 ま、ほとんどみんな、オトコだったんですけどね。

 で、みんなね、イケメンでね。いろんな種類のイケメンいたよー、僕を誘ってきたのはチャラ系だったけど、眼鏡イケメンくんとか、ちょっとショタっぽいスポーツ少年とかさ、うん、僕あそこで完全にオタサーの姫的でしたね、って、古いかあ、……ってそもそも僕が女だったならね! めっちゃまんまそうだったんだけどさっ。残念、僕は男っ。でもって、僕は異性愛者なんだわっ。女の子にしか欲情しねーのよ。カワイイ女の子ならなお、よしね。とーぜんだろ? 男性諸君よ。あ、嘘ついた人間未満たちは、男性にカウントしねーんだから反応しないこと。女性襲ったうえに嘘までつくとか男性じゃねえよ、ケモノだケモノのオスオスオスだ。


 で、ね、そんでもって僕がどーしてそこまでヤツらのイケメンタイプを覚えているのかってことなんですけどう、……まあ、そりゃ。四泊五日で、輪姦されまくれば、覚えません? そんくらいのこと。


 ヤツらとさあ、仲よくなったときさあ、

 ……楽しかったなあ。ああ、楽しかったですよ。

 知的レベルがね、なにせこの大学の水準でしたから。……楽しかった。僕は、あんなにちゃんとひとと話ができたのは、はじめてだ、って思った、……かもしれないです。それほどなんです。


 当時はね。まだこの世界大学の走りだったですでしょ。

 けど優秀なことは優秀だ、って確保されていましたよ。……"World Uni"なアカデミック・エデュケーションって、だって、そういう理念じゃないですか、ねえ、……そんなことにはここにおられる人間のみなさまには、もちろん僕などよりぜんぜんとってもわかってらっしゃることでしょう。ああ、人間未満、人間未満、嘘をついた人間未満、――俺はもちろんてめえら許しゃしねえからな。人権剥奪だ、人権剥奪。



 もちろんアイツらなんか早いとこ人間でなくしてやんの。



 仲よくなるうちに、僕は告白しました。……初夏、だったかな。わりと、早かったんです。ええ……信用を、したんですから。

 自分が、じつは、女ではないことを。ね。

 ……彼らは真摯に聴いてくれましたよ。情熱的な涙さえ浮かべて――大変だったな、大変だったなあと、手を握ってシェイク、シェイク、してくれたもんです。……嬉しかったなあ。嬉しかった。

 さすがにね、世界大学の人間たちですよ。最新のジェンダー論にも詳しくて、敏感で、……とても理解があるように、見えましたよ。ええ、ええ、それはもう……それはもう、ですよ。

 理解するよ、と言ってくれました。察するよ、とも。

 だったらオマエ俺らとおんなじで、野郎なんだな、なんて言ってくれました。

 野郎どもばっかでね。そんなとこでね。

 いやあ、感動的だったなあ。

 僕はここでは、男なんだって――自然なままでいられるんだって、ぶっちゃけ、超、感動いたしましたものですけれど。



 ……思わない。思わなく、ないですか?

 そんなこと。あんなこと。



『夏休み、いつものメンツで泊まりの旅行、行こーぜっ!』……って、



 ――僕をレイプするためだけの旅行だとかまったく思わなくない?

 あの、俺、……そこまで心穢れてない。



 穢れて、なかった。……ホントだよ?

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