【童話】藤助と小助
はくのすけ
第1話
山間の小さな村に一人の少年が居た。
少年はおかっぱ頭でいつもぼろぼろの黒い着物を着ていた。
少年の名前は『
小助は村一番のお金持ちの家に住み込んで働いていました。
お金持ち家には『
丈太は大きくて、力もあって、意地悪な少年です。
ある日、丈太が小助に言いました。
「おい!お前!その服、気持ち悪いだ」
そして、石を投げつけたのです。
小助は泣きながら逃げました。
「やめて!やめてよ」
しかし、丈太はやめようとはしない。
そこへ、丈太の父がやってきた。
「こら、丈太!やめないか」
丈太の父は怒るが、丈太はやめない。
困り果てた丈太の父は、小助と丈太が一緒にいると丈太が虐めていると思われる。
そうなると、村の私の立場も悪くなるかも知れない。
そう思って、小助を丈太から離すことを決めました。
そして、小助を蔵に閉じ込めてしまったのです。
小助は大きな声で叫びました。
「出して!ここから出して!」
何日も何日も叫び続けましたが、誰も蔵を開けてくれる人が居ません。
そして、五日目の朝には叫び声も聞こえなくなりました。
その日の午後に村祭りの為の集会が丈太の家で行われた。
「
丈太の父がと藤助に言った。
藤助は村一番の貧乏で、これと言って得意なこともない。
「どうしてだ?どうしておらが準備するのさ」
藤助は不安そうに言った。
「われわれは、祭りで必要な物を全て買うからさ。お前は銭がねえから買えないだろう。だからさ」
丈太の父親はそう言うと、藤助は黙ってしまった。
集まった村の者も、
「そうだ、そうだ」
と言って準備の全てを藤助に押し付けた。
藤助は嫌々、引き受けた。
藤助には丈太の父に逆らえない。
丈太の父は村長より村を仕切っている。
藤助はとぼとぼと家に帰ることにした。
そして、蔵の前を通りかかったときに、蔵から物音が聞こえた。
藤助は蔵を見る。
すると、不思議なことに鍵が掛かっていなかった。
藤助は恐る恐る蔵を開けて、中を覗いた。
すると、そこには、なんとも痩せこけた小助が倒れていた。
藤助は慌てて、小助を抱き抱える。
「大丈夫か?生きているか?」
小助は、弱弱しい声で
「何か食べる物を……」
そう言うと、気を失った。
藤助は慌てて家に帰り、質素な料理を用意した。
お金の無い藤助にとっては、その日食べていけるのもやっとだったのに、それでも小助に食べ与えたのである。
けして、豪華な食事ではないが、小助にはご馳走に感じた。
食事を終えた小助が
「何かお礼をしたい」
と言い出した。
「別にいいさ。困ったときはお互い様だ」
藤助はそう笑顔で言った。
それから、小助は藤助と一緒に暮らすことになった。
藤助は祭りの準備に取り掛かった。
のぼりや提灯、舞を踊るための篠笛など。そういった物まで藤助が一人で作る。もちろん、材料は運ばれてくる。
一人で作業をするには大変な量だった。
小助も一緒になって手伝った。
やがて、祭りの日がやってきた。
祭りには近辺の村や町からも人が来て大賑わいだった。
「この篠笛は手作りかい?」
祭りに来ていた身なりのとても良い老人が藤助に聞いた。
「そうさ。おらとこの小助で一緒に作ったのさ」
それを聞いた老人はたいそう驚き、
「わしにも、ぜひ作って貰いたい」
と藤助と小助に言った。
「作りたいのはやまやまだけどさ、おらには銭がねえさ」
正直に答えると
「お金なら用意しよう。それに必要なら工房もう作らせよう」
老人は簡単にそう言った。
篠笛を作ることになった、藤助と小助はそれから何日も何日も篠笛を作り続けた。
数ヶ月が経ったある日、町から老人がやってきて、大量のお金を持ってきた。
「これは、今まで君が作ってくれた篠笛の代金だ」
藤助は見たことのない大量のお金を前にたじろぐ。
それを小助は笑顔で見ていた。
こうして、藤助は村一番の貧乏から村一番のお金持ちに変わった。
次の日に、小助は姿を消した。
藤助は必至で探したが見つからなかった。
一方、丈太の家は、祭りの後から何をやっても失敗続きで、ついにお金が底をついた。
やがて、大きかった家も手放すこととなった。
そんな丈太達に、藤助は老人から頂いたお金を全て譲った。
そして、藤助はまた貧乏に逆戻りになった。
だけど、藤助は気にしていなかった。
これで、もしかしたら、また小助に会えるのではないかと思ったからだ。
しばらくすると、藤助の前に小助が姿を見せた。
「あなたという人は、どうしてお金持ちになったのに、それを譲ってしまったの?」
小助は藤助に聞くと
「銭は好きさ。だけど、銭で買える幸せなどたかだか知れているさ。人の心や繋がり、想いは銭では買えないさ」
何の迷いもなく笑顔でそう言った。
「実にあなたらしいですね」
小助は笑みを浮かべて言った。
そして、小助は再び姿を消した。
姿を消す前に、
「あなたのような人間に出会えて、まだまだ人間は捨てたものじゃないと気づきました。ありがとう。どうかお元気で」
そう言い残して。
その後、小助が姿を見せることは一度も無かった。
「小助よ、お前は一体、なんだったのさ」
藤助はそう思いながら、今日もまた篠笛を作り続ける。
【童話】藤助と小助 はくのすけ @moyuha
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