夢はお好きですか?

@tetra_kanon

第1話 悪夢は僕をおびき出す

 僕は何の変哲もない少年だった。

 くだらない話をしてのうのうと生きるただの人。

 ただ、この生活は僕には向いてなかったんだ。

 生きてくうちにボロが出てきて次第に周りから人が減っていく。

 始めに友達、次に先生、最後に親。


 気が付けば固く閉ざされた暗い部屋で画面を見続ける日々。

 何も感じず、何も思わない。


 唯一の味方は眠りについたときに現れる【名前のない少女。】

 彼女はどこから来たのわからないが、居場所が無い人の夢に入り込む悪夢と言っていた。いや、言って無かったかも。

 なんせ起きたら彼女の声は忘れてしまうから。 


 そして今日もまた僕は彼女に会いに行く。

 時刻は夜中3時。

 いつもよりは早寝だった。


「こんばんは」


 今日も僕から話しかける。

 真っ白なワンピースに麦わら帽子。

 目の前の悪夢は僕には見えない何かを摘んでいた。


「こんにちは。またお会いしましたね」


 目線は手先のまま、僕に挨拶を返した。

 そして見えない何かをそのまま食べた。


「相変わらずおいしそうに食べるね。僕の分は無いのかい」

「残念、今ので最後でした」

「それ、この前も聞いたよ」

「あら、奇遇ね。先ほどの質問、私も前にも聞きました」


 質問は綺麗にはぐらかされてしまった。

 しばし沈黙が続いた後、先に口を開いたのは彼女だ。


「ねえ、この世界から出てみない?」

「え?」


 何を言ってるんだと思った。

 

「ふふ、ついてきて」

「お、おい」


 僕は言われるがままについて行った。

 辺りの景色は真っ白な世界から次第に色が付き始めた。

 やがてそれらは一本の路地へと姿を変えた。


「ここは、昔来たことがある」


 あれは僕がまだ世の中を知らなかく、純粋に生きていた時。

 家の近くで友達とかくれんぼをしていた時。

 あの時も、知らない子についていっていた。

 そこまでしか覚えてない。


「もうすぐよ」

「どこに行くつもりだ」

「ひみつ」


 意識しないといここが夢の中だということを忘れてしまう。

 今現実世界だと何時なのだろうか。

 こんなに長い事夢にいるのは初めてだ。


「着いたよ」


 路地裏の先には何の変哲のないレンガ造りの家。


「ここは?」

「観測所よ」

「何の?」

「夢の。あなたの夢もここから見つけたの」

「はあ。君は本当に何しに来たの?」

「秘密。もう場所はわかったね、待ってるから」

「いや待ってるって言われても、行くって現実で?」


 薄れる意識の中彼女は何かを言っていたが、わからないまま目を覚ました。

 時刻は昼の12時になろうとしていた。


「行かなきゃ……なのか?」


 落ちていた有り合わせの服に着替え、親に見つからない様にひっそりと外へ出た。

 冬だというのにやけに暖かい気がした。

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