第10話


お兄ちゃん。幼い私が手を伸ばす。

私、いつかお兄ちゃんのお嫁さんになる。


そう笑う無邪気な私にヒロは少し困った顔をして、だけどこっそりと私の耳に囁いた。


「知ってる?誓いの言葉、ってやつを言うんだって。結婚式で」


「ちかいのことば?けっこんしき?」


不思議そうな顔をした私に、ヒロが微笑んだ。


たちばな 裕翔ひろとは、たちばな しおりを一生守り、愛しぬくことを誓います」


幼い頃の誓いの言葉は甘くて、甘くて、私達の甘い、毒になった。


神様の前で誓えなかった私達。


あまい、あまい、お砂糖が溶けて今、私達、地獄へ堕ちてゆく。

あまい、あまい、地獄へ、堕ちてゆく。


きっと温かく柔い真綿のような幸福こそが、私達の首を絞めるのに最も適する道具なのだと思う。


「幸福って、そんなに簡単に私達を許してはくれないね」


繋いだ手は、離さない。

冬空の下、二人、身を寄せ合って目を閉じる。


あまい、あまい、お砂糖に、毒が一つ。


あまい、あまい、お砂糖に、

................私達の罪と罰が、一つ。





シカクの愛________FIN

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シカクの愛 乙川美桜 @o_t_o_m_e__

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