第9話
永遠という繰り返しの中で、なにかが変わる時がくる。たぶん、救いや死というものは忍び足で他人の顔をしてやって来る。
近くの公園まで歩いてきた私たちは、ベンチに座り、そっと寄り添う。
突き刺さるようなヒビの入った冷たい空気とヒロのコート越しの体温。
ちゃんと、覚えていよう。
辺りは一面真っ白で歩いてきた私たちの足跡だけが、土に塗れて汚れていた。
だって私達はずっと光の当たらない場所にいたもの。
どんな美しさのなかにも必ず悲しみが隠れているらしい。
舞ってくる羽根が一枚、差し出した手に積もる。
でもほんの一瞬の隙間に世界は崩れてしまうから。
空を見上げる。
分厚く覆われた灰色の雲に問う。
どこへもゆけない哀しい記憶や哀しい感情は、どうすれば溶けて消えてくれるのだろう。
どうか、どうか冬を嫌わないでほしい。
凛とした空気、澄んだ星の光。
かじかむ指先で触れた、缶コーヒーのぬくもり。マフラーの肌触り。嘘みたいに舞う、一瞬の粉雪。
静けさと予感と、優しさにあふれた季節だと思うから。
寒さを知った唇が貴方に届く。
冷たい感覚のあとの甘い余韻。
冷えた鼻先を二人、擦り合わせながら笑う。
「あの樹に積もった雪が溶けたら、いこうか」
「地獄って、どんな所だろうね」
「さぁね」
「一緒に、いけるかな」
「一緒に、いくよ」
離れない。そう言ってぎゅう、と握られた指に力が入る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます