第46話「マテリアル・バスター(MB)」

「あの時の、アンズーか!!」

「汝!!」


 八年前からエルフ勢と戦いつづけたブリティティではあるが、このアンズーと戦うのはずいぶん骨がおれる、そのように。


「魔力弾と、火器による攻撃を禁ずる!!」

「二つの禁を使えるようになったな、アンズーめ!!」


 彼、オーク勢新鋭機「ラプター」を駆るブリティティは直感していた。


「ならば!!」


 ブォ!!


 摩風刺気まふうしき、そのピトスによる攻撃ならば、いかようにも出来るとブリティティは考える。


摩風刺気まふうしき、斧を発生せよ!!」

「ナンだと!?」


 そのラプターの手に持つ柄から斧状の気が発生したのを見て、魔怪鳥アンズーは。


「これは、私の反射で防げる物ではない!!」

「良い勘だな、アンズーよ!!」

「おおかた!!」


 ゴゥ!!


 凄まじい急加速でラプターがアンズーへと接近し、その大斧を振るおうとした瞬間。


「変幻する武器なのでアロウ!?」

摩風刺気まふうしき、剣と変われ!!」

「汝、斧による……」


 ザァン!!


 摩風刺気まふうしき、変化自在兵器による攻撃により、アンズーの羽毛が数枚剥がれ落ちる。


「しかし、敵の主力は!!」


 小競り合いか、それとも本気の侵攻か、その判断を下すのがブリティティ、老兵の役目でもあった。


「ブリティティ、あれは!!」

「ベールクト、マテリアル・バスターか!!」


 その従来の機体よりも一回りは大きく、妖しい「気」を放っている機体の姿をみて、ブリティティ老人は歯噛みをしながら。


「こちらブリティティ、MB(マテリアル・バスター)の姿を確認!!」

「マテリアルバスター、エルフ軍の侵攻は本気か!?」

「解らんが、用心に越したことはない!!」


 アンズーからの火弾を身軽にかわしつつに、ブリティティはややに後方に位置する味方通信機体に向かって、そうコクピットから怒鳴り散らす。


「マテリアルバスター、有機物を使用した最新鋭機かよ……」

「怯えるなよ、若いの!!」

「りょ、了解ブリティティ!!」


 とは言いつつも、ブリティティにしてもマテリアルバスターの恐ろしさは見に染みて解っている。


「戦力レシオが、このラプターと五対一……」


 ドゥム・キャットがアンズー随伴兵機体を撃墜している姿を見やりながら、ブリティティは洗練されたコクピット、あちらこちらに新鋭のコンソールが浮かぶコクピット内で静かに唸る。


「文字通りの、ポイント・マテリアルに代わる新型だな!!」


 最後の言葉は自らにと発破をかけるためであろう、その間にもブリティティは。


摩風刺気まふうしき長銃ジャザイルとなれ!!」


 味方がアンズーを引き付けているのを確認しながら、ジャザイルで敵のミーミルング、そして旧式機スプリートを撃ち落としていく。


 ガァン!!


「ベールクトからの砲撃か!!」


 隣の味方機が超遠距離から撃墜された事に戦慄を覚えながらも、ブリティティはジャザイルを射つ手を止めない。


「推参!!」

摩風刺気まふうしき、剣となれ!!」


 黒く塗装されたベールクト、それが不利を悟り撤退を始めたアンズーの代わりにブリティティ機へとその大鎌を差し向ける。


「たしか、その大鎌は!!」

「ベアリーチェ様から貸し与えられた物だよ、老いぼれ!!」


 ブゥン……!!


「気」で作られた剣は流石にその零刃昏邪映れいじしんやえいでは曲げられることはないが。


「くぅ!!」


 ラプターとベールクトでは機体性能の差が大きすぎる、相手の大鎌を受け、防御に専念している最中に。


 グォン!!


 人に近い動き、驚異的な柔軟性で回し蹴りをうけて、大きく彼ブリティティの機体が弾きとびされ。


「おうお!?」


 ビュオウ!!


 そのまま例の冷気により、近くにいたドゥム・キャットの内一機がそのコンバーターを停止させられ、地面へと落下していく。


「あの軟弱な機体しか作れなかったエルフ共が、こうも強力な!!」


 それに加えて零刃昏邪映れいじしんやえいのピトスにより攻撃をガードされては、たとえこの場でこの敵機を落とすことが出来ても。


「撤退だ!!」


 ブォウ!!


 味方の被害が大きくなるだけだと感じたブリティティは、偵察型ドゥム・キャットに退避の命を与える。


「逃がすか、老いぼれ!!」

「悪いな、若いの!!」

「レコーダという名前がある!!」

「あばよ、若造レコーダ!!」


 摩風刺気まふうしき、それは単に武器にとなるだけではなく。


摩風刺気まふうしき、竜巻となれ!!」

「なにい!?」


 目眩ましの真似事も出来るのだ。




――――――




「しかし、エルフ共め」


 数機逃げ遅れ、エルフ機ベールクトの餌となってしまった事を悔やみつつも、ブリティティは。


「何ゆえ、ここまでの戦闘兵器を作ることに心血を注ぐのだ?」


 戦線を後退させてしまった、その屈辱と責任感が、ブリティティを思索へと追いやるのかもしれなかった。


「まあ、戦いに勝つには、当然のことかもしれないがな……」

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