第45話「亡國」

「ラプターな」

「は、アーティナお嬢」

「お嬢は止めろ、ブリティティ……」


 すでに父である先代の大君主からその地位を受け継いだ騎士アーティナは、頭をかきながらそのブリティティの言葉を否定する。


「すでに父上は、一介の戦士の血を取り戻したようだ」

「ワーグがお好みのようですからな、あの方は……」

「奇襲戦法以外には使えぬと言うのに、あのポイント・マテリアルは」


 そういうアーティナは、すでに歴戦のPM戦闘の責任者としての風格を身に付けているようだ。


「あの女狐、クロトの事も忘れおってからに……」

「欲求不満が女へと走らせたのでありましょう、先代は」

「ほんに、あの女はどこへ……」


 何か、八年前辺りの戦闘で気風が合いそうな気がしていたが為に、今こんどはアーティナの方がクロト祭司の事を気にしている。


「ああ、そうだ」

「はっ……」

「ラプターだがな」

「話を戻されましたな」

「数が揃わぬのだよ、あの機体のな」


 ラプター、ドゥム・キャットの失敗を活かして開発された新鋭オーク機。


「夜に強く、姿隠しの能力も秘めている」

「ドワーフ共の所にある、リィターンよりも使えるかも知れませぬな、お嬢」

「お嬢は止めろと言うておるに……」


 そして、クロト祭司が祭壇へと封印していた魔風刺気まふうしき、それとの組合せにより、数多くの悪魔を撃退してきたアーティナのその自信は強い。


「まあ、でも確かに」


その噛み煙草を噛み締めるアーティナの視線の先、そこには人間の亡命部隊の大天幕が設置されている。


「もはや、敵はエルフの偉大なる者ではなく」


偉大なる者、ハイ・エルフの当主はすでに実の娘により幽閉されているというのがもっぱらの噂だ。


「ベアリーチェという小娘、そして悪魔共だがな……」




――――――







「リィターンを解体するって?」

「そして、その技術を応用して、マテリアル・バスターに対抗させる」

「そう簡単にいくもんじゃないし、それに……」


その言葉、それをダビデから聞いたとたんに、アウローラの形のよい眉がキリとつり上がった。


「未だに悪魔達に対しては、現役の機体よ、こいつは」

「だが、その悪魔たちもPMを使い始めている」

「そんなのは、この烙華槍らっかそうでどうにか……」


そう言ったきり、アウローラはその口をつぐんでしまう。


――炎を無効化する悪魔も多いからな――

「うるさい、ディオ」

――はいはい――


ときおり、ピンポイントで茶々を出す内蔵知能にはアウローラも少しは腹が立つ。


「しかし、このドワーフ領にも分解する施設がない」

「それが悩みどころなんだよなぉ……」


ダビデにしてみても、パゥアーがかつてほどのアドバンテージが無くなってきた事にフラストレーションを感じているのは確かである。


「長いよな、戦争も……」

「まあね、ダビデ……」

「ベオも死んじまったし、アルデシアもついに滅亡してしまった」

「はあ……」


その事実を胸に確認すると、どうしても気が重くなってしまうのはやむを得ない所であろう。

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