第三章 神の黄昏
第44話「流れる月日」
敗走したドワーフの戦車部隊が、一路ダキアの要塞へと向かう。
「おのれ、技巧王め!!」
チンギス、特権に目がくらみクーデターを起こしたドワーフの将軍は。
「今に、目にものを見せてくれるわ!!」
「だからといって、エルフ共との同盟は……!!」
「うるさい!!」
たしなめる部下の声にも、その耳を貸さない。
「上空、追撃部隊接近!!」
「技巧王めぇ!!」
ヒュオウ……!!
ドワーフ製の新型飛行用PM「ジーク」がテン・プラスを中心とした戦車部隊へと、爆弾攻撃を加える。
「エイトヘヴン共、空中へ退避せよ!!」
「テン・プラス隊を空へ揚げます!!」
「いいぞ、いい判断だ!!」
それでも彼チンギスは良好な反応をする部下を褒める事を忘れない、それが彼の私欲に満ちたクーデターをある程度まで成功させた理由の一つかもしれない。
「はあ!!」
オーク、及び「背の高い人」用に改良されたジークが、浮揚を始めたテン・プラスを一機。
「悪いが、この阿修羅!!」
瞬く間に撃墜をする。
「ドワーフたちには、恩があるもんでね!!」
「テン・プラス、速射加農砲を放ちます!!」
ダン、ダァン!!
火薬兵器、この五年間で飛躍的に発達した兵器による火砲がジーク、および。
「うわあ、目が回る!!」
「アンゼアでごんばって、ヴァイ!!」
「解っているけどぉ!!」
旧式極まりないアンゼアを、次々と狙い撃つ。
「高空だ!!」
「なんだって、阿修羅!?」
「もっと高空へ揚がり、叩き落とせ!!」
鹵獲機ミーミルングを駆るエルフにそう怒鳴り付けながら、阿修羅は自身の機体を高空へと退避させる。
「左舷!!」
ややに後方に位置するマテリアル・シップから響くマルコポロの声、それと同時に。
ガァン!!
「ああ!!」
咄嗟に戦力として駆り出されただろうドワーフ女技師「セラフィン」のエイトヘヴンが、悪魔の駆る魔獣ベヘモスの群れによって、撃墜させられる。
「エルフ帝国達の援軍でやんす!!」
「人間の敗残兵も入っているってな!!」
「トラキアの残党でヤンスよ!!」
そのマルコポロの言葉を証明するかのように。
バァ、バァン!!
マテリアル・シップのすぐ近くまでやってきたパゥアー達を、シップによる弾幕で各砲座が撃ち落とさんと奮戦する。
「撤退!!」
「ここまで来て、マルコポロさんよ!!」
「エルフに人間、それに悪魔まで相手に出来ないでやんすよ!!」
「ちっ!!」
「マテリアルバスターがいないだけ、ましかもしれないでヤンスけどね!!」
マテリアル・バスター、その名は対エルフ戦に従事する皆の戦慄の的となる言葉だ。
ギュウ!!
急速な旋回、パゥアーを上回る旋回能力によって、阿修羅の駆るジークは周囲へ声をかけながら。
「ピトスの一つでもあれば!!」
戦線を離脱しようと、その身を翻す。
――――――
「パルシーダさん」
「何だ、人間?」
「それに、ディンハイドさんも」
ドワーフ領の暑さに合わぬリコリスのその氷のような声に対して、二人のエルフはその面を険しくする。
「次の戦いからは出てきてもらいます」
「ベアリーチェと戦うのか……」
「すでにあの女は」
氷の女にして春の微笑みを失って久しいリコリス。彼女はそう冷たく言いながら。
「エルフから離れています」
「確かに」
「すでに、悪魔と変わらぬ存在となっておりますゆえ……」
細い腰へと携えている、ベオの形見である短剣へと、その舌を這わせた。
「相手がマテリアル・バスターといえども、あたしは負けません」
「ベールクトは、ポイント・マテリアルとは全くの別物ぞ」
「それでも」
カッ!!
その舌を這わせた短剣が、壁に掛けてある地図のエルフ領を貫く。
「ベオ様の仇です」
「ベオ、か……」
「この五年間、安らかに眠れた日はありませんよ、私は……」
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