第42話「悪夢」

 当時の新鋭機「アンゼア」の第二世代を駆る女騎士の攻撃は。


――本気できなさいよ、ホラァ――

――くっ!!――


 その異形のPM、アンズワースに対して全くダメージを与えられない。性能差もあるにはあるが。


――もっとも、本気できたら――


 ビュオウ!!


 魔機アンズワース、いやその機体が携える冷気の大鎌によって、攻撃の軌道をねじ曲げられ。


「た、助けてくれぇ!!」

「きゃあー!!」


 眼下で避難をしている自国民へと、流れ玉として命中する。


――ほら、ほらぁ――

――くっう!!――


 その姉が苦戦を強いられている光景を、年若きベオが城のテラスから実と眺めていた。


――ベオ様、避難を!!――

――まだだ、リコリス――

――あの方ならば、きっと勝てます――


 その年が同じ位の近侍の声にも耳をかさず。


 ガッ、シュ!!


――もう、興味が失せたわねぇ――


 姉が駆るアンゼアが街へと落ちる姿を、ベオはその瞳を大きく開け。


――おのれ、エルフめ!!――


 漆黒のPMへと、憎しみの視線を投げつけた。




――――――




「その俺が、あの女に同情をするなんてね」


 エイトヘヴン、アイワークス管制機を操縦しながら、ベオは姉の死の事を思い出している。


「他人にもてあそばれ、親兄弟から見捨てられた女」


 その事実を聞くに、ベオの弟の状態、そして過酷な人生にそっくりだったのだ。


「哀れだな……」


 もうすぐ人間領、黒土大地へとエイトヘヴンは帰還する。




――――――




「人間どもの、な」


 アーティナ、オークの女騎士はドゥム・キャットのコクピットから降りながら、隣の陸戦型PM機体から降りるスプリガン将軍にと語りかける。


「ダキア奪回、失敗したようだな」

「その責任の一端は、我々オークにもありまする」

「そうだな……」


 燃料補給線の確保の為に人間の領地「黒土大地」を通り過ぎる為の陽動をかって出たのはアーティナ率いる部隊であった。


「人間どもには、悪いことをした」

「人間が負ければ、次は我々オークの番ですな……」

「そうではあるが」


 そう言いながら、アーティナは興奮覚めやまぬ様子の父上。


「アイ、アイ、ガルミーシュ!!」


 踊り狂っているオーク大君主の姿を見やり、その緑色の顔を強くしかめる。


「父上に何があったのだ?」

「おそらく、久々の実戦にて気が若くなっているものかと」

「呑気なものだ」


 アーティナにしてみれば、裏撫鮑花りぶほうかが紛失したと共に行方不明となった。


「あのクロト、女狐はどこへいったのだ……?」


 人の身でありながら、オークの祭司を務める彼女の行方も気になる所である。




――――――




「人間達が、敗れたか……」

「技巧王……」

「まあよいわ、マルコポロ」


 巨体躯を誇るドワーフ達の女帝「技巧王」のその唸り声に対して、傍らに控えるマルコポロが怪訝そうな顔を見せる。


「今の我らには、彼らに力をかしてやる戦力はない」

「クーデターですな……」

「その兆候があったからこそ」


 ズゥ……


 そう、言いつつに女帝はその身を今度は後ろにと控えていた。


「我らは、本気をもって彼らの力になれなんだ」

「はい、お母様」

「そうであるな、ラキシス」


 美しい、人間の少女にと笑いかける。


「全く、チンギス将軍めが……」

「彼の野心は、しっていたはずでヤンスがね」

「言うなよ、マルコポロ……」


 少し彼の力、そして人望を甘く見ていた、その事が技巧王である彼女に。


「全く、やっかいな……」


 深い、ため息をつかせる。


「あっ……」

「どうした、ラキシス?」

四柔可しじゅうかが……」

「ベオ・アルデシアに貸し与えたピトスがどうした」

「共鳴を、始めました」

「共鳴?」

「はい」


 城のテラス、そこから拡がる砂海には爛々とした陽光が降り注ぎ。


「もしや我ら三姉妹のピトス、他にも手に入れたのかもしれません、お母様」

「クロトか、アトロポスか?」

「さあ……」


 小首を傾げる彼女の視線の先に、蜃気楼が目映く光った。

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