第40話「軟着陸」
「うう、寒……」
雪原へと不時着をしたエイトヘヴンは、そのまま雪へと埋まりどうにかベオはその埋もれたPMの中から這い出る。
「燃料も火種もない、参ったな……」
ブリザードが吹き荒れる厚い雲の下では、熱源がないのは困ったどころの話でない。
「救援を待つか?」
しかし、ここはすでにエルフ領である。エルフ達は雪原にと入り込んだ人間は容赦なく殺すと聴いたことがある。
「そうだ……」
「えーと……」
エイトヘヴンの下部へと搭載されているピトス、巨大な糸車のような姿をしているそれを取り出しながら、ベオはその特殊機能へとその指を触れる。
「これで、望む相手が来てくれるといいが……」
暖もない、凍えながらベオは
ザッ、サァ……
「助け、か?」
しかし、遠目から見るとその人影はエルフの特徴を宿している風に見える。
「参った、捕虜の運命か……」
それでも凍え死ぬよりはましだと思いながら、ベオはその男のような格好のエルフの接近をその場で待つ。
「一人、か?」
そう、ベオが呟いた途端に。
チャ……!!
「長銃!?」
そのエルフはフリントロック式のライフル銃を構え、ベオにと向ける。
「くそ、やめろ!!」
ダァ、ン……!!
そのライフル銃が火を吹くと同時に、ベオの背後で何かが倒れるような音がした。
「驚かせたか、下郎?」
ベオがそのエルフ男の言葉に誘われるように振り返ると、そこには一匹の雪狼が倒れていた、はぐれ狼だったのどろう。
「不用心だな、下郎よ」
「助かったと、言うべきかな?」
「言いたくなければ、言わなくてもよいだろうな……」
そのまま猟師姿のエルフはライフル銃をその背に背負いながら、ベオの元へと近づく。
「ここは人間が足を踏み入れる場所ではない」
「エルフよ、お前の名前は?」
「名など、どうでもよいことだ」
「ああ、そうかい……」
ブル……
少し緊張がほぐれたせいか、またもやブリザードによる冷気がベオの肌身を強く切る。
「寒い……」
「そうか、人間よ」
そのエルフはそう言ったきり、片手をベオにと差し向けながら二、三言術を唱えた。
「これで少しはましだろう、人間」
「ああ、助かった……」
保温の術を掛けられたベオは素直にエルフに対して礼をいいながら、その手に持つ
「このピトス、役にたったみたいだな」
「魔性武器だな、人間よ」
「知っているのか?」
「こう見えても、私は博識だ」
雪がこびりついた細いひげをしごきながら、そのエルフはベオに対してニヤリと笑う。
「スノーウルフ、食べるか?」
――――――
「不味い……」
「ああ、それは」
火を起こしてくれたエルフが器用に切り分けた雪狼の肉を頬張るベオは、その生臭さに胃から酸っぱい物が込み上げてくる。
「このスパイスをかけろ」
「こんなもので、味が変わるとでも……」
そう言いながらも、スパイスをかけて焼けた肉へとかぶり付いたベオは、その味の違いに驚いて。
「旨い……」
「だろう?」
「エルフの知恵か」
細いひげを生やしたエルフの顔を、実と見やる。
「人間どもに追われた時に、作った品物だ」
「……」
「作るのに三十年はかかった」
「それまでは、この不味い肉で我慢していたと……」
「あとは、巨人族の支援があってだな」
「巨人族?」
「フィボルグ、粗暴な氷雪の巨人だ」
ム、シャ……
口へエルフが肉を入れた時に火が、一つはぜた。
「フィボルグは、支援の見返りとして生け贄を要求した」
「生け贄か」
「その中には、ベアリーチェ王女も含まれる」
「あの女、元気そうだぞ?」
そのベオの皮肉に、エルフはすぐには答えない。
「生きて帰ってきたからな」
「他のエルフは全滅か」
「だが、ベアリーチェの心は壊れていた……」
「壊れた心……」
「故に、ワシもディンハイドもあやつには腫れ物に触るように接するしかない」
その台詞、それを聞いたときにベオが感じた感想は。
「ワシもディンハイドも、あやつを愛する資格がない」
「可哀想だな……」
「そう思うか、人間よ?」
「少し俺の心も疲れ、甘くなったな」
「疲れた、か」
「ああ」
言葉、それは人の嘘と本音を使い分ける。このベオの場合は後者である。
「可哀想と思えるならば」
「それよりも、前に聞きたい事がある」
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