第39話「撤退戦(後編)」

「こちらファンサーワ、離脱する!!」

「死ぬなよ、撃墜され王!!」

「イージェクト、イージェクト!!」


 ファンサーワ、ナンバーイレブンの異名を持つパイロットがパゥアーから脱出していく姿をその目にとめながら、全軍の撤退前線指揮を執るベオ。


「アウローラ、退けと言っている!!」

「くそぉ!!」


 バッバア……!!

 

 その時、彼女の機体の剣から焔の波が黒不死鳥隊の数機を切り裂き、そのままアンズワースまで届く。


「何をしているか、黒不死鳥隊!!」

「申し訳ありません、ベアリーチェ様!!」

「次にこのような失態をしたら、貴様から凍り付かせるぞ!!」

「ハッ!!」


 その烙華槍らっかそうから伸びた炎の槍はアンズワースの双発コンバーターの片方を吹き飛ばし、そのまま後列のマテリアルシップまでも被弾させた。


烙華槍らっかそうの隠された力!?」

「ベオ様、撤退でいいんですよね!?」

「おう、急げよ!!」


 不調となっているコンバーターから霊気の波を吐き出しながら、リィターンが後退していく姿を見やりながら、ベオも後退を自身の機体へと仕掛けていく。


 ピィ……


「な、なんだ!?」


 突如としてベオの頭を貫く淡い記憶、その記憶がベオから集中力を奪う。


――助けて!!――

「ベアリーチェ、王女……?」


 直接には聞いたことは数えるほどにしかないベアリーチェ、ハイ・エルフ王女の声、それを聞いたとき。


「俺の、胃が痛い……」


 グゥン!!


「う、うわ!?」


 突然、エイトヘヴンが必要以上の空中浮遊を始め、そのまま風に流されていく。


「ベオ様、制御が効きません!!」

「立て直せ、リコリス!!」

「無理です、コントロールが!!」


 コンバーターが全く動かず、高空の荒風に流されるままのエイトヘヴン。それがエルフ領へと向かっていくのを感じたベオは。


「リコリス、脱出しろ!!」

「いやです、ベオ様を置いて!!」

「いいから、脱出だ!!」


 ガ、コッ!!


「ベオ様ー!!」


 いやがるリコリスを無理に排出、脱出させながら、それでもベオは機体の維持に全力を振り絞る。


「このままでは切断山脈を越えてエルフ領、冗談ではない!!」


 だが、そのベオの見込みは甘かったのかもしれない。高空の風は極めて強く、山脈を軽々と越えて。


「エルフの百年凍土がみえるぞ、どんなスピードなんだ!?」


 エルフ達の故郷、凍り付いた凍土へと機体が流されていくのを、そのまま受け入れるしかない。


「くそ!!」


 それでもコンバーターを生かそうとするが、やぶ蛇かもしれない、コンバーターを吹かすと共に機体がどんどん北へ流されていくのを、ベオは感じている。


「百年凍土だ……!!」


 厚い雲間から見える地表、そこは吹雪に覆われたエルフ達の土地である。旧アルデシア王国のさらに北。


「不時着するのか、こんな所に……」


 猛烈な寒さを伴ったブリザードが、機体の外装甲ごしにベオの骨身へとしみた。

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