第38話「撤退戦(前編)」

「オークどもめ、流石に火事場泥棒!!」


 人間達の援軍に向かおうとしたドワーフ部隊、新鋭機「テン・プラス」を中核とした部隊であるが、近くへオーク達が進攻をかけてきたことを受けては予定を変更せざるをえない。


「このダマスカスを抜ければ、油田にありつけるぞ!!」

「ヒーハー!!」

「ヒャッハー!!」


 陸戦用PMワーグに跨がったオーク騎兵の先頭には、奇声を上げ続けるオークの大君主の姿。


「昔の血を、おもいだすぞ!!」

「この人は、全く……」


 オーク油田襲撃隊の副隊長であるスプリガン将軍のややに冷たい視線も気にせずに、ひたすらバイクPMを駆るオークの大君主。彼の近くへドワーフ機からの砲撃が跳ぶ。


「そんなへなちょこ弾に、当たるものかよ!!」

「くそ!!」


 バイクPM、直撃を受ければひとたまりもないが、当たればの話だ。


「油田に設置する予定のワープ装置だけは、壊されるなよ!!」


 ひたすらヒャッハーと奇声を上げ続ける、良くも悪くも若返ったオーク大君主に代わり、スプリガン将軍は指令を冷静に部下へとだす。


「このような姿、アーティナお嬢に見せられるものではないな……」


 苦笑しながらも、大口径のマスケットをドワーフ機へと向けて放つスプリガン将軍の操縦にはブレがない、もっとも。


「今回は、短期間だけの油田泥棒だけでよしとしなくてはな」


 いくら大口径といっても、人型サイズのマスケットではドワーフPMにダメージは与えられない。



――――――




「ドワーフの援軍はまだか!?」

「途中で、オークの部隊に襲われているらしいぜ、ダビデ!!」

「冗談じゃない!!」


 敵のマテリアル・シップによる支援も加わり、ジリ貧と化してきたダキア攻略作戦。


 ズゥ、ウ……


 マテリアル・シップをミーミルングの間をすり抜けて、一隻沈めたのは良いが、性能が上昇しているアンズワースによる被害が大きい。


「リーデイド!!」


 リーデイドの駆るアンゼアが撃墜され、その光点がレーダーから消え去るのを見てベオはエイトヘヴンの中で悲鳴じみた声をあげる。


「全軍!!」


 ズゥン!!


 テン・プラス、ドワーフ製のPMを得意とするガルガルチュア将軍からの伝達がベオの機体へと飛ぶ。


「後退、後退だ!!」

「全軍……!!」


 その時、ベオの機体のピトス「四柔可しじゅうか」の魔力糸を通して全軍へ伝達が廻る。


「後退せよ……」


 その命を受け、殿に数機のパゥアーが張り付く、その中には聖戦士ダビデの姿もあった。


「ベオさん、お先に!!」

「早く逃げろ、アウローラ!!」


 見ると、リィターンの右肩のコンバーターが大きく破損をしている、どうやらアンズワースによる攻撃をまともに食らってしまった様子だ。


「死ぬなよ、ダビデ達!!」

「早く行け、ベオ!!」

「すまない、ルクッチィ!!」


 聖戦士ダビデの昔の呼び名を叫びながら、高空へと浮かぶベオのエイトヘヴンも後退を始めた。


「逃がさないよ、お前達……」


 その言葉を受けて。


「追え、レコーダ」

「了解……」


 黒不死鳥隊、漆黒のミーミルングを中心として構成されたPM達が敗残の兵を追う。


「くそ!!」


 追い付かれ、思わず下品な言葉を口走ってしまったリィターン、アウローラにレコーダの機体が剣を振るった。


「もらった、金ぴか!!」

「その声!?」


 その澄んだレコーダの声を聴いたときに反転、炎の剣を振るうアウローラ。


「やめろアウローラ、退け!!」

「親の仇なのです、こいつは!!」

「やめろと言っている!!」


 その声に構わず、なおも一層紅く輝く剣をレコーダ機へと向けるアウローラ。


「仇、仇ぃ!!」

「強い!?」

「死ねぇ!!」


 剣はなおも紅く、紅く燃え。


 ガッ!!


 他のエルフ機スプリートが支援に入るまで、レコーダ機を押し潰さんばかりにその焔を煌めかせた。


「なんだ……!?」


 そのアウローラの姿を見たとき、ベオは何か、恐ろしい物をそのリィターン。


「魔性武器……」


 いや、炎の剣に見いだし、その言葉が自然と口から漏れ出した。

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