第32話「ドワーフ基地襲撃」
「ステルス、湖の水路を利用したでやんスカ!!」
「ドワーフの知能では、思い浮かばなかったみたいだわね!!」
ベアリーチェ機アンズワース、昔ベオ達が滞在していたダマスカス基地の「ピトス」貯蔵庫から一振りの弓を盗み出す。
「さすがに新型が配備されているみたいだけど、それでも!!」
ヒュウ!!
またしても例の冷気をその大鎌から放たさせ、マルコポロが乗る撃ち出されたドワーフ新型PM「テン・プラス」からの霊力噴出砲を防ぐアンズワース。
「それはダメでやんす、危険なのでやんスヨ!!」
「敵の言う台詞を、素直に聞くとでも!?」
「技巧王が恐れる、恐ろしい武器らしいでゲス!!」
そのマルコポロの言葉を鼻で笑い、機体を急上昇させて戦域から離脱しようとするベアリーチェ。
「単機ならばぁ!!」
ドワーフの女技師にしてパイロットであるセラフィンが、テン・プラスから加農砲と霊力砲を融合させた新兵器をアンズワースへと撃ち放とうとする。
「テン!!」
「テン・プラ!!」
「テン・プラス!!」
ヴァイとオリン、二人のフォブリン族の茶々をその耳へと受けながらも、セラフィンの機体から霊力加農砲が精密照準によってアンズワースへ放出させた。
「入れ子、閉鎖」
「閉鎖、閉鎖!!」
「へーさ!!」
それと同時に、薄暗い機体内を逆噴射を防ぐ為にドワーフ・ルーンにより処理された閉鎖器を淡い光が包む。
「ちぃ!!」
「歪み」のピトスが上手く機能しない、
「まずい!!」
火力負けしている、その事にベアリーチェは歯噛みをしながらも、どうにか自機への霊力砲の直撃を防ぐ機動をアンズワースへと強いる。
「ドワーフの多脚PM、でき損ないめ!!」
「援軍はまだでやんスカ!?」
新鋭のテン・プラスはまだまだ数が少なく、偶然か相手が狙ったか旧式の数も少ない。
「くそ!!」
展開を始めたナーイン・ワンの加農砲では、さすがにこの漆黒のPMアンズワースには直撃を食らわせられない。
「遊びはここまで、かなぁ……?」
お気に入りの絵巻を後部倉庫から取りだしながら、ベアリーチェは引き際を考え始めた。なにしろ単機での奇襲なのだ。さすがにこの「戦力」で基地を壊滅出来るとは傍若無人なベアリーチェも考えない。
「じゃなあ、ドワーフ共」
「くそ!!」
ダメ押しに出撃した旧式鹵獲機、スプリートが簡単に撃墜させられる姿を見て、この基地で世話になっているオーク戦士「阿修羅」が墜落したスプリートからエルフを助け出そうとする。
「無茶だよ、アンタ……」
「ああいうのは、許しておけない性分でな、昔の副頭」
「野盗時代の事なんぞ、いうなよ」
慣れない気候にまた一つ顔に皺が増えたエルフの男に、阿修羅は軽く笑いかけた。
「アウローラなら、良い勝負が出来たという話があるのにな」
「あれは人間の黒土大地での、主戦線での話だろう、阿修羅?」
「会いてぇな、アイツに……」
「その内に会えるさ」
「そう、だな」
――――――
「リコリスちゃんか……」
リィターン、対悪魔用の機体のメイン・パイロットとなったアウローラのベオお付きメイドの名を呼ぶ独白に、紅い月が実と見守る。
「お友達になれそうだな」
「アウローラ、出撃準備を急げ」
「了解」
上官からの、軍へ入ったことによる命令系統からの指示にアウローラはリィターンの調整を始める。
「エルフ達への憎しみも、同じ位だしね」
その「エルフ」という単語を言う度に自身の身体へ流れている半分の血、所謂ハーフエルフの血が恨めしく思うのがアウローラの感じやすいセンスであろう。
「どうせなら、このリィターンも対悪魔ではなく、対エルフに力を発揮出来ればいいのにな……」
紅い月は独白には無論に答えない。しかし、この機体が対悪魔相手ならば戦力レシオが一対十あたりあるのは事実である。
「野盗のみんな、会いたいな……」
やはり、彼女は少し感傷的になっているようだ。月の影響か。
――――――
「ふん……」
悪魔達の総大将、女王ヴィーナスはそう言ったきり、不機嫌そうにその大弓、アンズワースの左腕に握られている弓へとその目を持ち上げ、冷笑を浮かべてみせる。
「アルテミスの弓か」
「どう、オバサン?」
「内面で歳をいうでないわ、ベアリーチェ」
また一つ鳴らされる冷笑、ヴィーナスにしてみれば、エルフの王からの独立を考えている彼女ベアリーチェとはどうしても気質があと一歩のところで合わない。
「不遜と思ってしまうのは、私が同じような事をした後ろめたさからかな?」
「何をブツブツ言っているの、魔王ヴィーナス」
「何でもないわ」
小柄な人型体型の時では、ピトスもポイント・マテリアルに乗っているベアリーチェも見上げるしかない、それが彼女ヴィーナスには不満でもある。
「このアルテミスの弓、な」
「なにさ」
「お前にくれてやる」
「ホント?」
「最強のピトスであるからな」
ピトス、その名を言ったときにヴィーナスはややに苦い笑いをその可憐な顔にと浮かべた。
「せいぜい、それでお前の言う下等生物でも射抜くがよい」
「わーい」
わざとらしいベアリーチェの矯声、その声と共に大弓の形と大鎌の姿をした魔性武器が怪しく光る。
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