第31話「失墜の王子」

「あのパゥアーが大量産の暁には、あっという間にエルフどもを駆逐してくれようぞ!!」

「そうだ、そうですとも!!」


 そのウイグス大司教の言葉に周囲の者たち、取り巻きたちは一斉にうなずくが、ガルガンチュア団長だけは渋い顔を崩さない。


「そして、あの栄華な生活を今一度!!」

(そう、上手くいくものか)

「エルフどもが、人間の領地に入るなどとは許されんことだ!!」

(そう言うなら、ご自分で何とかしたらどうです、ウイグスどの)

「民草も嘆いておるわ!!」

(笑止な、その民から散々に搾り取った贅肉のくせに)


 ガルガンチュアのような考えをする人間はたくさんいるが、それでも旧アルデシアの国教「メサイア教」の大司教に対して正面きってその事を話せる人間はいない。


「ウボッ、ウボッウ」


 どんなに高尚な事を言ってもその口へと食べ物を運ぶウイグス司教、肉パンが彼の口からこぼれ出る姿を、ガルガンチュアは冷ややかに見つめていた。




――――――







「ワーグ部隊、整備終了」

「まるで泥棒のやり口だよ、スプリガン」

「言ってくださるな、大君主」


 久々の戦い、もしかすると生涯最後の戦いになるかもしれないとなると、オーク大君主の士気の低さは由々しきものである。


「これからのオーク勢力には、ドワーフ共の原油が必要なのです」

「落ちぶれたものだな、我々オークも」

「その台詞、陽動を行ったアーティナお嬢に聴かれると」

「わかった、わかった……」


 ボゥン……!!


 非人型極まりないバイクPM「ワーグ」の部隊が、オーク大君主が駆る機体を先頭にしてドワーフ領にと向けて発進を始めた。


「人間どもとは、剣を交えたくなきものだな」

「精神的な話ですか、それとも戦力的な?」

「両方だ、スプリガン」


 人間の領土「黒土大地」を通り抜けなければならないのが、この原油強奪作戦の最大の不安要素である。




――――――







「パゥアーの数がそろってきた」

「では、いよいよダキア奪還の兵を挙げるのか、ガルガンチュア団長?」

「ああ、お前を旗印にしてな、王子」

「……」


 豪奢なマントを翻して、大司教の居室へと向かうガルガンチュアがあえてベオを「お前」呼ばわりしたのは、彼の特殊能力にうすうす感づいてきたせいであろう。


「俺は……」


 軽くその唇を噛むベオ「王子」


「弟の二の舞には、ならないぞ」


 その特殊な「才気」を翻したが為に周囲の人間に疎まれ、孤独に陥りなかばエルフ達との第一戦で捨て駒にされた弟の記憶は、姉や両親と同じくベオにとって苦き物。


「なあ、ウイグス」


 そして、ウイグス大司教を始めとする俗悪達の対応に心身ともにすり減らし、世の中に疲れ果てた父母の姿を頭へと思い浮かべる度に。


「はやく、肥満で死んでくれないかな……」


 今、このトラキアでも贅沢な生活を改めない彼らへ対する憎悪が湧いてくるベオ青年である。

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