第29話「二代目のリィターン」

「データリンク、ピトス発動」

「そのピトス、とやらの名は?」

「四柔可(しじゅうか)」


 セラフィン、ドワーフの女技師の言葉に、ベオはコクピット内からその顔を覗かせる。


「前面レーダー、通常」

「あと、一二分待ってみな」

「了解」


 コクピット内で野菜ジュースを飲みながら、ベオは彼女の言葉どうりにしばし待つ。


 ブォン……


「おお……」


 レーダー範囲が、今までとは比べ物にならないくらいに拡大したことに、ベオは感嘆の声を上げる。


「未完成だったリィターンとのリンクまでクッキリだ」

「通信はまだ、あんたには無理みたいだけどね」

「ピトス、万歳と……」


 正直、まだベオにはピトスというものがよく解っていない。リィターンがその手に持つ烙華槍らっかそうがその内の一つである事しか解らない。


「ピトスって、いったいなんだ?」

「別名、魔性武器さ」

「魔性武器……」

「神様からの、贈り物ではないとへパイトス様も言っていた」

「へパイトス、あの肉塊にしてドワーフ達の技巧女王か」


 結局、彼女からも大してリィターンについて聴けなかったベオはその唇を尖らせて不満をその面にだす。


「リィターンが俺じゃなくて、アウローラを選んだってもな」


 少し位は何か、その選び変えた理由を教えてくれてもよいと、ベオはまたしても不機嫌になる。


「教えても意味がないとか、言っていたわよ、技巧王は」

「意味がないねえ……」

「パイロット登録が、あんたを受け付けなくなったっていうのも大きいかも」

「せっかく、ドワーフ基地まで運んでやったのにな」


 恩知らずな、とベオは無機質なはずのPMリィターンへその怒りの矛先を向ける。


「おや?」

「どうした、ベオ王子?」

「リィターンの反応が、異常に増大した」

「交戦中なんじゃないか、あの黄金の機体が」

「そう、かもな……」


 この三年間で訓練をつんだとはいえ、未だに猪突な面が強いアウローラを、ベオは強く心配する。




――――――







「歪みのピトスが効かない!?」


 アンズワース、エルフ軍のフラッグマシンのパイロットであるベアリーチェは、自身の零刃昏邪映れいじしんやえいの防壁が炎によって貫通させられることに激しく動揺している。


「エルフは!!」


 アウローラ、二代目のリィターン操縦士はそのまま烙華槍らっかそうの炎、直進のピトスで相手の「歪み」を貫こうとする。


「撃滅!!」

「シャア!!」


 ベアリーチェの奇声と共に放たれた誘導霊力弾を身軽にかわし、アウローラはリィターンの出力を上げる。


「ミーミルング隊、ジャザイルであの金ぴかを狙撃しろ!!」

「ハッ!!」


 パシュ!!


 そのベアリーチェの号令とともに遠距離からPM用の長銃、ジャザイルと呼ばれるライフルによる狙撃がリィターンを狙い、アウローラはそれを烙華槍らっかそうの炎で迎撃する。


「はいやぁ!!」


 旧式のアンゼアではエルフ新型のミーミルングに対抗するのは不利ではあるが、それでも遠距離から狙い撃ちされるのは御免だと思ったのだろう。一機のアンゼアがミーミルングの弾幕を潜り抜け、接近戦をしかけた。


「何の!!」


 その黒いミーミルング、黒不死鳥隊のメンバーが放った剣撃により、そのアンゼアは簡単に落とされ。


「金色を押し潰せ!!」


 勢いづいた敵機、エルフ部隊はアウローラ機リィターンを包囲しようとする。


 ビュオオ!!


 零刃昏邪映れいじしんやえいからの冷気がリィターンの動きを強く押さ、その身を凍えさせる。


「くっ!!」

「そらぁ!!」


 ベアリーチェの斬撃をかわし、その刃に烙華槍らっかそうの刃を合わせながら、アウローラは自機を後退させる。


 カツ、カッ!!


「何!?」


 即座に零刃昏邪映れいじしんやえいのバリアを展開させ、銃弾を防ぐアンズワース。


「パゥアーだ!!」


 黒不死鳥隊の若手レコーダが、ややに恐怖に満ちた声を上げ、アンズワースを支援しようと試みる。


「そこの黒いエルフ機!!」

「何だ!?」


 シュア……!!


 いずこからか現れた赤い機体から、野太い男の声がした。


「ここは俺に任せな!!」

「まだ、アタシは戦える!!」

「カアちゃんが、ヴィーナスからの命令だよ、嬢ちゃん!!」

「くそ!!」


 一つ悪態をつくと、アンズワースは双発コンバーターをリィターンへと向け、その機体を翻し撤退を試みる。


「黒不死鳥隊、撤退する!!」

「まて、エルフ!!」


 ベアリーチェの命令は絶対なのだろう、黒不死鳥隊とやらは一糸乱れずに隊長機アンズワースに続く。


「くそ!!」

「久しぶりだな、リィターン!!」

「何者だ、紅い機体!?」

「ありゃ!?」


 その紅く塗装されたPMからすっとんきょうな声が、辺りへと響く。


「以前のニイチャンじゃない!?」

「ベオさんのこと!?」

「女、か!?」


 バシュ!!


 その紅い機体が火縄銃を放ち、それを回避したリィターン、アウローラ機を巨大なPM用のハンマーが襲う。


「甘い!!」


 その大振りのハンマーの一撃をかわしたリィターンへ、フェイントの「振り」をしかけた不明機が鉄塊を直撃させる。


「きゃあ!!」

「なるほど、アポロンのヘリクツ野郎の言う通りだ」


 激しい振動によって機体バランスを崩したアウローラ、彼女のリィターンが大きくふらつく。


「このポイント・マテリアルとやらならば、無効化バリアを無視できる!!」

「無効化バリア!?」

「俺様アレスを始めとする悪魔に対する、防御装置だよ!!」

「悪魔、あなたがアレス!!」


 名前だけはアウローラはベオから聞いている、かつてベオがリィターンに乗っていた時に戦った悪魔。


「なぜ、悪魔がエルフどもの味方を!?」

「俺が知るか、カアちゃんが決めたんだよ!!」

「どちらにしろ!!」


 烙華槍らっかそうの炎が不明機を襲う。


「くそら、俺が生身ならば……」


 悪魔アレスは炎に対して耐性がある。その事を彼は愚痴っているのだ。


「やはり、このPMというのは扱いづらい!!」

「そのまま、扱いづらいまま落ちろ!!」

「くそ!!」


 またしても烙華槍らっかそうの強烈な火焔、それが敵性機の機能を低下させる。


「覚えていろ、女!!」


 ブォフ!!


 不利を悟ったのか、赤い不明機はエルフ部隊が去っていった方向とはややに異なる方面へと去っていく。


「追撃を防ぐためか」

「アウローラ、こちらも撤退だ」


 僚機からの通信に、アウローラはその顔をしかめてみせる。


「もっと、エルフ達を追いつきたい」

「ベオからの指示だよ」

「フン……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る