第二章 マシン拡大

第28話「新鋭機達」

 パゥアーと呼ばれるポイント・マテリアルがある。


「くそ、羽根付きめ!!」


 天使の羽を模した霊動コンバーターを持つ人間勢力の新鋭機。何でも「メサイア教」に伝わる力天使とやらの名前を拝借したらしい。


 バフォ!!


「エルフ王国、万歳ィ!!」

「遅いんだよ、エルフ機!!」


 槍を突き立てられ、さらにその槍の脇に設置されたPMマスケット銃からの零距離射撃を受けて、爆発四散するエルフの新鋭。


「ミーミルング、およびスプリート部隊撃破!!」

「こちらの損害は、ベオ!?」

「アンゼアが七機、パゥアーはゼロ!!」

「アンゼア、がな……」


 エルフの哨戒部隊と交戦したエース「ルクッチィ」が率いる隊は、上空高くに浮揚している管制機「エイト・ヘヴン」からの通達に、軽くその精悍な顔を歪める。


「アンゼアはすでに三年前から時代遅れになったかな、ベオ?」


 夕の日が覆う上空のエイトヘヴンにそう、軽い口調で語りかけるルクッチィ機には全く損傷がみられない。


「どうかな……」

「同じく三年前にお目見えした敵エルフのミーミルングが、なかなかの性能だったんですよ、ベオ様」

「まあ、そうだな」


 サブ・パイロットを務めている少女の近侍が、どこかベオを慰めるようにそう語りかける。


 ピィー!!


 ベオの正面大レーダーから、未確認機多数を示す光点が彼の視界へと入る。


「不明機、接近!!」

「不明機、エルフどもではないかよ、ベオ」

「エルフではない、ならば答えは一つ!!」

「昔の一朝一飯の例があるんだがね!!」


 そうこうしている内に、オーク新鋭機「ドゥム・キャット」を先頭とした部隊がオークの大地から見え始めた。


「どこもかしこも、新型か」

「しかしな、ルクッチィ……」

「言わなくても解る」

「解るもんかよ」

「解るんだよ、このパゥアーの事だろ」

「本当に解るのか?」

「すげぇ性能だ……」


 そう言いながら、ルクッチィは青く塗装された人間勢力の新型「パゥアー」のメイン武装であるライフルランスを軽く傾ける。


「エルフやオークの新型なんぞ目ではないし、アンゼアの五倍以上の性能があるぜ、こいつは」

「過信は禁物だ、ルクッチィ」

「なら、お前もこいつに乗れっての」

「今の俺にはな、こいつが一番だ」


 そう、彼ベオはこの「エイト・ヘヴン」に習熟して久しい。


「な、リコリス」

「はい、ベオ様!!」


そのあいだに、蒼いルクッチィ機と敵の隊長機らしきPMが交戦を開始した。槍とオーク機の斧から火花が散り開く。


「今日は敵同士だな、若いの!!」

「元気そうでなりより、ジイサン!!」


 ガァン!!


 アンゼア・タイプの後継機にして人間勢力の新型「パゥアー」のライフルランスがブリティティが駆るドゥム・キャットの可変装甲へと当たり、乾いた音が夕闇へと響き渡る。


「PM、ジイサンもポイント・マテリアルに乗れるのか!!」

「ワイバーンがもう、養えんのだよ、オークの土地では!!」

「その痩せた土地のせいで、あんたらは人間、エルフ問わずに他国へ侵攻しているんだったな!!」

「おうよ!!」


 ドゥ、ドゥウ!!


 ドゥム・キャットの機体性能は遠距離戦が主軸だ、ブリティティはパゥアーから一気に距離をとり、離れざまに連装マスケットをルクッチィの青色パゥアーに向けて撃ち放つ。


「なん、の!!」


 ライフルランス、槍と火器の複合兵装をルクッチィはお返しとばかりに噴射させ、その火焔がドゥム・キャットの視界を塞ぐ。


「このダキアとトラキアを結ぶルート、それが欲しいみたいだな、オークは!!」

「ドワーフどもの石油が欲しいのだよ、我々はな!!」

「PMの燃料にするためか!?」

「他に何がある!?」

「ねぇな、ジイサン!!」


 その言葉の衝撃とともに、パゥアーが再度ブリティティ機へと肉薄をし。


「何てスピードだ、人間どもめ!?」

「パゥアーのパワー、およびスピードをなめるな!!」


 ジャ!!


 ライフルランスをつきだし、それを間一髪で回避したブリティティ機ドゥム・キャットへライフルによる追撃を試みる。


「くそ、脆い!!」

「悪いな、ジイサン!!」


 一瞬、ドゥム・キャットの豹を模した顔が苦渋に歪んだかのような錯覚をルクッチィは感じ、それと同時にドゥム・キャットの安定板が強く破損した。


「オルカスに比べて、機体がやわだ!!」

「ヒラヒラとドレス・テープを付けるから、こうなる!!」

「オーク向けの機体ではない、このドゥム・キャットは!!」


 その文句の通り、ブリティティの上官である騎士アーティナのドゥム・キャットは後退してしまっている。


「こうも、この私が後退させられるとは……」


 彼女はリーデイドのライフルランス、それのコンビネーションアタックをマトモに受けてしまったのだ。


「オークは接近戦に馴れている、だからドゥム・キャットに不利を喰らわすとは言い訳か……」


 それを言えばエルフ達のミーミルングも遠距離戦用なのだが、元々がエルフは白兵戦を好むとはいえないので、アーティナの言い分は必ずも間違っているとはいえない。


 ブォオ……


「撤退だ、撤退!!」


 自分が弱気になったから撤退の合図を指示する、それこそアーティナ言い訳である。


「ローテクなんだか、ハイテクなんだか!!」


 未だに角笛連絡兵ワイバーンを残しているオーク軍に、ベオは高空から呆れたような声を上げた。




――――――







「今日は苦労だった、リコリス」

「ベオ様のためなら」

「アウローラが、北部戦線へ行っているからな」


 その名を聞いたときリコリス、女近侍の目に怪しい影がよぎる。


「ねえ、ベオさま」

「ん?」

「あの、三年前に友となった野盗達、懐かしくないですか?」

「まあ、懐かしいな」

「たとえ、敵となったら?」

「さぁてね……」


 ベオの肩を竦めた誤魔化しの声は、リコリスには特に不快を与えなかった様子だ。


「アルデシア王国の王子様ですからね、ベオ様は」

「まぁな」

「あの、人間を含む難民達に食料を与えて国を追い出されたエルフ王子ディンハイドとは違う」

「アイツなりの思議があったんだろ?」

「私達を裏切らないで下さいね、ベオ様」

「ああ……」


 正直、ベオは彼女の愛情が重く感じる。そういう時がある。

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