第23話「地の者の力」
「んじゃ、リーデイド」
「しばらくはお別れね、ベオ」
夕陽が強く照りつける、砂塵にと覆われたドワーフ基地の「カッソウロ」の上で、ベオは旧アルデシア王国でガルガンチュア団長、今の対エルフ武装組織、解放戦線である傭兵団を束ねている彼へ宛てた封書を密偵である彼女へと手渡した。
「まあ、実際の所」
「所、なんだよリーデイド?」
「あんたが居なくても、傭兵団は廻る」
「言われなくても」
夕陽が浮かぶ空、砂漠地帯ならではの乾いた空の隅端に赤い光が見える。凶兆の月が瞬いている光である。
「俺が、解ってますよだ……」
「拗ねないでよ、もう」
「まあでもな、リーデイド」
旧神聖アルデシアに限らず、もともと亡びた王国の王族などはどうやっても飾り物、対エルフ勢力の旗印としての存在だ、別にベオの能力云々だけの話ではない。
「俺にたとえ政治や渉外のセンスがあったとしても、それほど」
「立場は変わらない、かしらね……」
「一人の王子の力で、祖国復興が何とか出来たという、よくある英雄伝説」
それはまさに旧神聖アルデシア王国の建国王「アルデシア」が成し得た言い伝え、百年前から始まったアルデシア王国が持つ歴史の最初のページである。
「どの程度、本当なのやら……」
スゥ……
肩を竦めてみせるベオの視線の先、その先には一隻の船、先のドワーフ女技師の言葉によれば船型のポイント・マテリアルであり。
「マテリアル・シップ……」
「空飛ぶ船、霊動飛行船ね」
「凄いものだよよな、リーデイド……」
夕陽に照らされるその武装戦闘船は、ポイント・マテリアルこと霊動甲冑の運搬船であるらしい。
「あのな、リーデイド」
「何よ、ベオ?」
「俺は今まで、敵はエルフ達のみを意識していれば、立場的には良かったと思うが」
「あのね、ベオ」
静かな声を放ちながら、彼ベオの肩へそっとその手を乗せるリーデイドの顔を見上げたベオに、彼女は軽くその首を振ってみせた。
「いわなくても、ね」
「俺の死んだ、姉貴みたいな声をだしてくれるなよ、リーデイド」
「あなたの姉さんと思ってくれても」
天の夕陽が作り出す、その彼女の影はベオのそれより頭一つ辺りは長い。
「構わないけど、ベオ?」
「いくら、姉貴と仲が良かったいっても、ごめんだね」
「フフ……」
再びマテリアル・シップへとその目を向ける二人、どちらともなくため息が出る。
「人間は、もう一人立ちできないな」
「考えない方がいいわよ」
「そうだな……」
「どのみち、エルフとドワーフを一緒に敵へと回したら、人間には絶対に勝ち目は無い」
「ドワーフ、達か……」
実際の所ベオはエルフ達、彼らの総戦力がどの位かは知らない。北方地域の旧アルデシア周辺諸国を版図に収める力があることは、もちろん無論に解るが。
「しかし、ドワーフ達にしても」
ざっと、この基地内で彼らがベオ達、他種族に見させても問題ないと考えた部分だけで、すでに彼ベオが所属する傭兵団の戦力を上回っているのだ。
「そして、その約三倍が人間が持つ残りの、全ての戦力だ」
場合によっては、この基地のPM兵団のみで人間達を、旧アルデシアの残党を含む人間という種族を殲滅させる事も、あるいは。
「流石に勝率は低いが、ゼロではない……」
それに加えて、飛行船マテリアル・シップの堂々たる威容は。
「もしかして、エルフとドワーフの首脳陣、彼らの考えには人間とオークの事なんぞ、すでに頭の中に無く」
ブ、ルゥ……
そのベオが感じた寒気、それは夜が訪れようとしている、熱が砂漠から離れようとしている気候のせいだけではない。
「エルフかドワーフ、どちらかがこの世界の覇者になろうとしている……?」
想像力、が逞しすぎるとも一概には言えないであろう、このベオの言葉は。
「エルフと、そして」
古から続く森の種族「エルフ」と同じ位には、大地の種族「ドワーフ」はこの世界に存在していた。少なくとも大昔からの口伝では。
「ドワーフは、仲が悪い……」
そして、それも昔から伝わる「常識」である。
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