第4話「夜空に舞うPM」
「物音?」
武器庫から出てしばらく、出口へと続いていると思わしき通路を歩いていたベオは、前方から微かな物音が聴こえるのをその耳へと捉えた。
「厄介な事になりそうだ……」
そう口ごもりながら、ベオは金色のPM、世に見慣れないタイプの機体に装備されている霊波通信機を広域受信モードへと合わせる。
ガッガアッ……
「何か、謎の霊波通信の波動を受信し……」
通信機、そこからベオが忌み嫌うイントネーションの響きがある言葉がコクピット内へ響く。
「エルフ語!?」
その言葉を聴いたベオは、軽く唇を噛みながら、自機を早足で通路を駆けらせた。
「冗談じゃないな……!!」
PMを駆けらせるベオの前方へ徐々に、通路を照らしている光源よりも明るい、強く輝く光が近付いてくる。
「ドワーフのゴーレム、それに……」
バァ……
ベオの機体が広い空間へ跳び出す。見上げんばかりに高い天井から薄青色の光がその広場を照らし、煌めきを満たしている中に。
「エルフ製のPM、か……!!」
どうやらその場所では激しい戦闘が行われていたらしい。初期型PM「ゴーレム」とエルフ軍が使用しているPMの残骸がその空間の床へ散らばっている。
ジャアフゥ……!!
「来る……!!」
その煙を上げているエルフPMとゴーレム達が転がる広間、所々に巨大なクリスタル状のモニュメントらしき物が立ち並ぶその空間の脇に見える小部屋、そこから。
ガゥン!!
激しい音をたてながら、数機のPMが立方水晶体の屹立しているこの広大な大広間へ飛び出してきた。
「PM!?」
隊長機らしき、他のエルフ機とは若干に仕様が違う機体から若い男の声が辺りへと響く。
「遺跡の奥からPMだと!?」
そのエルフに続き、他の一機からも驚いたような声がベオ機へかけられる。
ジャア……!!
「名乗れ!!」
隊長と思われる男、彼の駆るPMが黒く染め上げた曲刀を肩の鞘から抜き出しつつ、誰何の声をベオに向けて投げ掛けてきた。
「エルフ共に!!」
その細い、見慣れない形をした曲刀を自分へと向けられながら、甲高い声で居丈高に告げられては。
「名乗る名前はない!!」
ベオにしても交渉術というものを咄嗟に発揮出来るほど、人間は出来ていない。
「人間か!?」
「ベオ、ベオ・アルデシア!!」
「名乗ったな!?」
「礼儀だよ!!」
ギィ……
そう怒鳴りながらも、ベオは武器庫で手に入れた魔剣、炎の剣を正眼へと構えさせた。
「人間め……」
そのベオの魔剣にただならぬ物を感じたのか、隊長格の機体を始めとしたエルフ機達も各々がPMへと握らせている得物を構え、ベオが乗る黄金の機体と距離を測ろうと。
グゥイ……
静かに、その歩を地面へと擦らせつつベオ機を半円に囲もうとする。
ジジッ……
「ライ・フォッサ……」
ベオの広域受信状態にしている通信機へ、先程の言葉とは違う、もう一つのエルフ語が飛び込んできた。
「くそう、エルフめ……」
エルフ語に対して、ベオは決して詳しいとは言えない。一般会話程度ならば出来るのだが。
「分からん……」
今の通信に使われていると思われるのは上位エルフ語、暗号代わりにも使用されている難解な言語だ。
「王子から後退命令が出ている……」
「ちっ……!!」
無論、ベオが対峙しているエルフ達へ対してはその言語の内容が伝わっている。
「本当に、俺もツキが無い……」
彼らが相談している様子をじっと見つめながらも。
「まあ、どうにか切り抜けるしかないがね」
ベオは即座にPMを動かせるよう、操縦桿やフットペダルへと置く手や足首に。
「ン……」
軽く力を入れたり、あるいは抜いたりしながら身体、生身の体の筋肉の感じを整え続ける。
ギュウ……
「むっ!?」
エルフの隊長機、彼が懐から何か大きな巻物、巨大な布のようにも見える品を床へと投げつけた。
シュアァ……!!
その巻物から霧の様なものが立ち昇り、その霧の壁を盾とするようにしながら。
ギォウ……!!
「ソイツらに遊んでもらえ、人間……」
コンバーターからけたたましい音を響かせつつ、エルフ達のPMが広場から後退をしていく。
「逃げるか、いや……」
ベオは先程の上位エルフ語の無線の中で。
「敵、そう言ってたな……」
その単語だけは自分に理解出来た事を思い出す。
「エルフ共にトラブルが起きている……?」
そう呟きながらも、ベオは一つ息をついてから、周囲へと広がるPM等のスクラップを見渡し。
「まあいい」
そして先程のスクロールから、揺らぎつつに人の形を作り始めた「霧」へと向けてその目を動かす。
シュア……
その人型の霧、それらが冷たい風を発しながら結晶化を始める姿を見て、ベオは自機の出力を上げ始めた。
「こいつらを蹴散らすしか、俺に道はないな……」
結晶化、実体となった霧の人影達の姿は約五体。そのPMと同じ位の大きさをした人影の顔には口だけが真一文字と裂けている。
「氷のエレメント、だな」
PMの動力源である霊動エンジンにも使用されている氷の精霊、その召喚された精霊達の口から。
ギュアァ……
ベオの機体へ向かい、氷の粒を含んだ冷気が迸る。
「くっ!!」
その冷気の帯を見たベオは、機体を僅かに浮揚させると同時に真横へとステップを切った。
ジュウゥ……
完全にかわしきれなかった二列の冷気放射がベオ機、金色のPMへと引き寄せられるかのように弧を描き、迫りくる。
「ムウッ……!!」
やむを得ず、PMの片腕を機体の目の前にかざしてベオは冷気を防ごうとする。
シュア……!!
金色のPMの腕、そして胴体に冷気が張りつくと同時にその装甲板が微かに光を発した。
パチィ……
「ほう……」
軽く火花が機体から飛び、一瞬にして機体へとまとわり付いた霜が蒸発する。
「この精霊連中、は弱いか?」
そう、コクピット内で呟きながらもベオはもう片方の手、右手へと握られている魔剣を軽く振りながら、エレメント達の姿を睨み付けた。
「いや、違う……」
その氷の霊が放った冷気。それが疾り去った床面は固く凍りつき、その冷気放射の跡からは冷たい蒸気が舞い上がっている。
「おそらくは……!!」
パフゥ……
幻影コンソールにベオが次々とその指を這わすと共に、現行の量産PM「アンゼア」によく似たメーター類の針、よくPMパイロット達に実体がある幻覚と呼ばれている疑似メーター系の指針が勢いよく揺らぎ始めた。
「この機体が強いのかもな!!」
そう叫びながら、ベオは一機にフットペダルを押し込む。その金色の機体が背中のコンバーターから疾風を噴き上げながら、氷の精霊達へと急接近をしかける。
「アンゼアタイプとは比べ物にならない!?」
あまりの急加速に、ベオは氷のエレメント達との距離を見誤ってしまう。
「くそ!!」
そのまま、機体をぶつけるかのように氷の精霊達へ突進を仕掛けてしまう形となったベオ機、それでも彼はどうにか剣、炎の魔剣を前方へ突き出させる事が出来た。
ガォ!!
魔剣が精霊の内の一体へ触れたと同時に、剣から炎が勢いよく吹き上がる。
「凄いな!!」
その炎は氷のエレメントの内、一体の人影を瞬時に吹き消した。
「この魔法の剣は!?」
魔剣の力に驚きながらも、ベオはレバーとペダルで機体を制御しようとする。この広く高い空間の上方へ向けて。
バゥン!!
金色のPMが、その背部コンバーターから光を放ちながら跳ね上がった。
「くるか、氷の精霊!?」
フォウオ……
そのベオ機を追って、精霊達が緩やかに浮遊を始める。しかしにそのスピードは遅い。
「突破は容易!!」
炎を発していない状態であっても赤熱をし、紅い輝きを放っている魔剣を頼もしげに見つめながら、ベオは機体を精霊達に向かって突撃させた。
――――――
「マジに厄介になってしまったよ!!」
生身のままに飛行術を使いながら、その手から雷光の術をオークのワイバーン・ライダーへ向けて放ち続けるエルフの青年。彼のついた悪態の一呼吸後に。
ドゥウ!!
「おうっと!?」
「ちい、エルフめ!!」
飛竜を駆るオークから放たれた火縄銃による射撃。それをどうにか強化式の矢避けの術で受け流す、貴公子然とした男エルフ。
「オーク共が!!」
またしても悪態をついた青年エルフが舞う夜空、深紅の月の光が降り注ぎ、その月光が赤く彩る夜の帳に包まれた古代ドワーフの遺跡、その周囲へ剣戟と爆発音、叫び声が響く。
「全軍、オーク共を生かして帰すな!!」
PMへと乗る暇がなかった遺跡発掘部隊の隊長であるエルフの王子が、空を飛び回りつつに突如として襲ってきたオーク達、その襲撃部隊へと対する迎撃の陣頭指揮を取っている。
「PMスプリートへ乗れる者は、すぐに機体を空へ上げろ!!」
「了解!!」
その命令に答えて、エルフ達が仮設整備場に鎮座しているPMへ向かって風のように走る。
ドゥ、ルゥ!!
その整備場のすぐ近く、たまたまに近くへと居たエルフの乗り込んだ機体、そのPMからアイドリングの音が辺りへと響く。
シュウォ……!!
「ちっ!!」
オークの指揮官機から放たれた弩による射撃を矢避け、中級風術で防ぎながら、エルフの総指揮官である青年は術を使い、空高くへと浮かび上がった。
「トゥール!!」
ジァア……!!
そのエルフ青年の手のひらから、まばゆく光る稲妻が轟音と共にそのオーク指揮官機へと放たれる。
「オーク共のPM技術が上がっているか!?」
その電撃はオーク機の表面装甲を軽く焦がしただけで、大きな損害は与えられない。
「でぇいあ!!」
オークの量産型PMオルカス、それの指揮官仕様機がエルフの青年へとその躯を突撃させ、弾き飛ばそうと試みる。
「甘い、オーク!!」
紅く光が満ちる夜空を、そのエルフ貴公子の身体は風のように疾る。
シュ……!!
「空を飛ぶネズミのようなエルフめ!!」
青年の身体、その数倍の大きさを誇るオークのPMの体当たりを、エルフの若き指揮官はややに荒い息を吐きながらも身軽にかわし。
「空を飛んでも、イノシシであるオークには我らは捉えられまいに!!」
「ホウ!?」
魔術行使による疲労を強く感じながらも、エルフ青年は風刃の術を発動させる。
「その声はさ、エルフ!!」
エルフの指揮官からの風の刃の術、それをかわそうともせずにオーク女騎士「アーティナ」は自機の装甲でその風の刃を受け止めながらに、僅かに驚きを秘めた声をコクピット内で自身の舌へと乗せた。
「その声は、ディンハイドだな!?」
「私の名を知っているか、オーク!?」
「エルフの王族の一人だったよな!?」
オーク女騎士はそう叫びつつも、彼女は再度に青年の身体を粉砕しようと。
バゥウ!!
機体の出力を上げ、飛行術を駆使するエルフ王子へと自機を迫らせる。
シィハッ……
「ちょこまかと、ネズミが!!」
「悪いか、オーク!!」
術を使い巨人、PMの攻撃をかわし続けるエルフの青年ディンハイド。
ドゥ!!
そのディンハイド王子が再度に稲妻の術をアーティナ機へと向けて放った。
「術の使いすぎだ、私は……」
コフゥ……
同時にそのエルフ青年の胃から込み上げてきた酸っぱい液体が、彼の口の端を汚す。
「非力な、エルフ!!」
それでも、やはり彼エルフ貴公子の術はPM、オーク諸族の勢力が主力機であるオルカスへは全く損害を与えられない。
「のようだな、オーク騎士!!」
「そのまま術で精を使い果たし!!」
バウゥ!!
霊力弾、ポイント・マテリアルの標準装備である射撃兵装による青い光が青年エルフのすぐ脇をかすめ、彼ディンハイド王子の飛行術がその余波によって大きく乱れた。
「地面へ落ちろ、エルフ!!」
「言われるままに、なる筋合いが私には無い!!」
ドゥウ……!!
オーク女騎士へ向けてエルフの王子は牽制の稲妻、そして威勢を放ちながらも。
ギゥイ……
地面、地表へと向けて急降下を掛ける。
「逃げるか、エルフ王子!!」
「私にも鎧、PMが必要であるよ!!」
ブゥ、ン!!
エルフのPMが鎮座している整備キャンプ、そこへディンハイドは舞い降りようとし、その身体を空中で強く捻った。
「ちっ……!!」
その王子を援護するかのように、エルフ軍のPM隊が浮上を始めたのを視線へと止め。
「冥加なエルフめ」
ジャア……!!
青年、ディンハイド王子の追跡を諦めたアーティナ機。その彼女へ向けてエルフの支援PM隊の手から霊力の玉がオーク女騎士の駆る機体へと向けて連射される。
「装甲、それではオーク製の機体にかなう品物はない!!」
ドゥ、ウゥ!!
その強装甲機オルカスは僅かに被弾をしながらも、あっぱれにパイロットであるアーティナは怯まず。
「痒いわ、かえって気に障る!!」
その緑色の顔から牙をつきだしながら、彼女はエルフPM隊を迎え撃とうと剣を強く自機に構えさせ。
「支援する、騎士アーティナ!!」
「にーはっは、助かるな!!」
彼女のPMへ、支援のオーク部隊が加わったと同時に、エルフ達へ向けて突撃を仕掛けた。
――――――
「さすがにエルフが駆るPM……!!」
オーク特殊部隊の副官である老オーク「ブリティティ」が乗るワイバーンへ対して、エルフ達のPMであるスプリート・タイプが来襲してくる。
「情けないPMの基本性能の低さ、それをエルフ自身の制霊力で補っておるわ」
ブゥオ!!
ワイバーン隊の吐き出す炎にもエルフ機械化部隊は怯まない、果敢にオーク達のPMとワイバーン騎乗部隊へ向けて牽制射撃をしかけながら。
ゴゥウ……!!
距離を詰めようと、己の搭乗機の背から青色の光を放ちつつ、エルフ達は自機に拍車をかけ続ける。
「フン!!」
老オーク、ブリティティはその太い両足でワイバーンを制御しつつに。
「エルフ共、バリアを使ってくれるなよ……」
自分の手持ち火器の照準を、エルフPM部隊へと合わせる。
ガォン!!
実験段階の霊力弾発射ライフルがエルフPMの内の一機へと命中する。その霊力弾はエルフ機の装甲を貫き、変形させた。
「よくも!!」
肩へ曲刀を下げているエルフPM、その機体から響く若い男のエルフが放った怒りの声と共に。
バァ、フゥ!!
「ワイバーン!!」
老オークの霊力ライフル発射後の隙を狙ったそのエルフ機、改良型と思われる彼の機体から放たれた術、雷撃による攻撃をブリティティは。
「ジャチェ!!」
自らが乗るワイバーンを跳ね上がらせて、寸前でかわしたのはいいが。
「まずい!!」
「くたばれ、オークの老人!!」
他のエルフ機と同時に斬りかかる、若い男エルフが駆る機体。その他のスプリートに比べて明らかに動きの良いPMが薙いだ、黒い刀身をした剣が。
「往生際の悪い老人が!!」
「それで何が悪いか、若造エルフ!!」
まさしく老オークの頭をかすめ、彼の髪と共に僅かではあるが血飛沫が宙へと飛ぶ。
「顔を見もせずに年齢を当てずっぽう、やはり能無しオークの年輪なぞは!!」
「あてにならん事は無い、ひよっこエルフ!!」
ガゥ!!
ブリティティの同僚が駆るワイバーン、それがこの目前のエルフ機へ鋭い牙を迫り出たせ、一瞬ではあるが。
「せいやぁ!!」
黒曲刀を持つエルフ機が身を引いた隙に、ブリティティは乗竜の巨体を下降させつつ、腰に吊るしてある炸裂弾をその手に取り。
ヒュオ……!!
近くで被弾し、危うくエルフ達から集中砲火を受けかけていたオルカス・タイプ、彼女の機体間近へと投げつけた。
ボゥウオ!!
「助かる、老ブリティティ殿!!」
「ボサッとするな!!」
自分のワイバーンから軽く炎を吐き出させ、着火させた炸裂弾から吹き出た煙により。
「ガルミーシュ神がお怒りになるぞ、無様は!!」
「面目ない!!」
友軍PMの姿をエルフ達の目から妨害させるブリティティ、オークの老戦士。
「感心したぞ、老人オーク!!」
「しっつこい、若造!!」
だが、どうやらその周囲へと目を配らす事が出来たが為に。
「この俺に感心をさせた心意気、堪忍と感じさせてくれる!!」
この腕の良いエルフは、ブリティティ老人をオーク部隊の中核と確信してしまったようだ。
ドゥウオ!!
そのエルフ機からの霊弾射撃を仲間のワイバーン達が、数匹がかりの火炎噴射で迎撃こそしてくれたが。
「PMに接近されると、ワイバーンでは手数で押されるわ……!!」
「ならば!!」
ドゥン!!
「私達が相手になれば良いだけの事だ、ブリティティ!!」
「女め、オークのメスめ!!」
ブォ!!
「当たるものかよ、奇妙な剣使い!!」
その曲刀使いのエルフへ体当たりを仕掛けながらも、アーティナはその相手からの斬撃に加えて。
バァリ!!
「冗談抜きに出来る様子だよ、この女のオークは!!」
「ディンハイド王子、ここは俺が!!」
「後退しろ、私に任せろ!!」
下方からの別機体、エルフ王子ディンハイド機から放たれる放電の射撃を見ずにかわすこの女騎士アーティナの腕前には、この場にいる敵味方全てが感嘆せざるを得ない。
「お嬢!!」
バッ、バア……!!
地表からの敵機、稼働に成功したエルフ製PMスプリートの部隊が随時浮上を始めた姿を目にし、老オークは自らのリーダー機へ向けて声を張り上げた。
「ベヘモスの使い時では!?」
「だめだ、ブリティティ!!」
ズゥン!!
火縄銃を構えたスプリートからの射撃が自機の脚を撃ち抜いた事に騎士アーティナは顔をしかめつつに、同時に三機のエルフPMを相手取りながら副官へと声を投げ返す。
「しかし、このままでは我らは皆、御ん陀仏になり!!」
「少しは戦士の誇りを捧げなければ、ガルミーシュ神の怒りを買う!!」
「では、ありますがぁ!!」
スァオ!!
エルフ側のPM「スプリート・タイプ」達がこの時分になってようやく、オーク達が駆る「オルカス・タイプ」と比べ、明らかに動きが良くなり始めた。
ゴゥ……!!
そのエルフ機の剣により、コクピットを貫かれた一機のオルカスが地面へ落下をする。
「退くか、戦い続けるか、それともベヘモスか!!」
「ベヘモスでしょうに、アーティナお嬢!!」
「雑な即席召喚で、魔獣が我らを主と認識出来るものかよ、ブリティティ!!」
最初にその「切り札」を使わなかった事、それを騎士アーティナは悔やみながらも、どうするべきかを。
ゴァン!!
エルフPM達と剣を切り結びながら、必死で頭を回転させている。
「くぅ!!」
ディンハイド機、スプリートの改良タイプが突き出した剣がアーティナの機体左脚を捉え、彼女の機体がグラリと傾く、その時。
ブァフ!!
「何だ、エルフ共の新手か!?」
遺跡の入り口から、金色へと塗装がされたPMが夜空に疾った。
――――――
「エルフ、そしてオークだと!?」
氷の精霊達を打ち倒したベオは一気に機体を出口へ向かわせながら、無線から聴こえてくるエルフ語、そして人間の言葉に酷似しているオーク語にその顔を。
「最悪の運勢だよ、俺!!」
強く、しかめる。
「だが、このPMの機動力ならば突破は出来る、容易!!」
ガォウ!!
紅い月夜へ向かってベオは一気に自機を加速させ、戦場から離脱させようと試みたが。
「そうだと、思い込むよ俺ベオは!!」
「ところが、ドッ金色!!」
「またしても、エルフか!?」
ドゥ!!
エルフの王族、ディンハイドの駆るPMがベオ機の行く手を妨げる。
「何奴だ、誰何するよ!!」
「人間だよ!!」
「で、あるか!!」
ギァン!!
二機の剣が交差をし、激しく火花が夜空へと散り散る。
「おおう!?」
そのベオ機、そして彼の駆る機体出力に、エルフ王子のPMがあやうく上空へと弾け、吹き跳ばされそうになった。
「スプリート、私の制霊力にカスタマイズされたスプリートが出力負けをするか!!」
ボゥ……!!
ディンハイドの機体が体勢を整え直し、PM用ソードを構え直しながら。
「あれが、父上がおっしゃられた機体、PMだとでも言うのか……!?」
再度に自機をベオの機体へ向かって、突進させた。
「機体から飛び降りろ、小僧!!」
「飛び降りたら、俺が困って死ぬだろう!?」
「拾ってやる!!」
「嘘をつくな!!」
バゥ……!!
ベオの金色機体が紅い夜空へと舞い昇り、それを追うディンハイド。
「死体を拾ってやるという意味だ!!」
「それをしても俺は喜ばなくて、アトリアトヤッシタとも言えはしない!!」
「嘘は言っていない!!」
「ならば、余計にタチが悪い!!」
「良い材質の墓は造ってやる!!」
「それも嘘だろう!!」
グゥ、グゥウ!!
ディンハイドのPMは必死でベオの金色の機体を追いかけようとするが、古代遺跡へとあったベオのPM、それのスピードは並ではない。
「そうだ!!」
ボゥ、ウゥウ……!!
「そのエルフ王子の言っている事は、お墓も含めて嘘だよ、人間!!」
オーク騎士アーティナの機体が霊動ターボ、補助装置を起動させて急上昇をし、その勢いのままベオ機へ切りかかってきた。
シュウ!!
「そうだろうに、オーク女!!」
その彼女の剣を払い除けながらも。
「俺達の国を滅ぼしたエルフは、耳の形からして嘘なんだ!!」
ザゥウ!!
ベオは、自機をさらに高く飛翔をさせる。
「だが、私にもお前はPMから落ちて欲しい!!」
「エルフもオークも、落ちろ落ちろと!!」
「落ちれば、簡単にその機体が手に入る!!」
「当たり前だ!!」
「落ちろ!!」
ブォウ!!
再び振るわれたオーク騎士の長剣、それに対してベオは自機をその刃の下へ潜らせるようにしながらかわし、かつに機体を機敏に操作し。
「どこかで聴いた事のある声をした人間よ、フォーリング!!」
「厭だ!!」
グォ!!
ベオ機がコンバーターから放つ気流、それが僅かにオーク女騎士が乗るPMの視界をふさぐ。
「どこかで聴いた事のある声をしたオーク女、ノー!!」
「ならばに、他人任せにフォーリング!!」
「力ずくへと言い換えたか!!」
しつこく追撃をしてくる二機へ向かって、苛立ちを顔面へと浮かべながらも。
「でぇあ!!」
ベオは魔剣を振りかざし、その刀身から吹き出る炎で周囲の二機PM、エルフとオークが乗る機体を威嚇する。
「良い剣だ、ニンゲン!!」
「その生意気な声、どこかで!!」
「欲しい物だ!!」
が、その威圧的な炎の魔剣にも全くにオーク騎士アーティナは怯まない。むしろ。
「どこかで会ったよな、オーク女!?」
「私の面子を潰してくれたガキだな!?」
「そうか、なるほど!!」
何かに嬉しげな声を上げながら、オーク女騎士は自機オルカスから霊力弾を放つ。
「名ばかり騎士のオーク女!!」
散弾として放たれたその霊気の波、それを軽々と。
「護衛していた村、その時のオーク女か!!」
ベオ少年は叫び返しつつも、コンバーターを吹かして。
「正解だよ、人間!!」
ドゥウ……!!
魔剣の炎を噴出させながら、アーティナ機からの霊弾射撃を自機に回避させる。
「慣れてきたかな、俺はこの剣に!?」
しかし、慣れたのは良いことであるし、オーク女騎士の機体と含めて。
「高々と、松明のような剣を!!」
コクピット内でそう叫ぶ、エルフ王子ディンハイドの機体、二機体のみがベオ機へと追い突き追撃できていることは、幸運でもあるが。
「見せつけて、この後にどうするかよ人間!?」
「どうしようか、どうしようかな困ったよ、と!!」
そのベオ少年が頭を捻りながらうち放った言葉の通り、彼にはこの後の身の振りようがない。
「そう、俺はそう繰り言を言っている暇があるなら!!」
ゴゥウ!!
金色のPM。その背の推進器から紅く、凶兆と世間では伝えられている「紅き月」の光にも劣らぬほどに輝く赤光をベオは自分の機体から噴き出させつつに考え。
「逃げるか!!」
ひとまずは、この場から立ち去るしかないと判断した彼のその結論、それは極めて常識的だ。
「させるか、人間!!」
グゥ……
ディンハイド機、スプリートが持つ豪奢な装飾が施された剣、その刀身から。
ブァウ!!
細剣であるPM用レイピアーから、霊力で形成された刃がベオ機へと飛ぶ。
「ハァ!!」
ベオの魔剣が一閃をし、エルフ王子からの霊力刃風を迎え撃とうと。
ボゥウ!!
相殺させようと試みたベオ、彼の機体がその手に持つ剣から紅い光がほとばしり。
「私と同じ技、いや!!」
ディンハイド王子が放った剣波をその魔剣の紅光が燃やし、そのままエルフの貴公子が駆るPMへ炎の波が迫る。
「我を守りし魔法の壁よ!!」
シュウア……
対抗魔法、アンティ・マジックによる障壁を自らのPMの前へ打ち立てようとディンハイド、エルフ王子はコクピット内でその細い両の手を組み、印を切ったが。
ズゥオ!!
「うぁ!?」
その魔力壁を軽々と魔剣の炎は貫き、直撃を受けたディンハイド王子の乗機「スプリート改」からモウモウとした煙が立ち上がる。
「神託のPM、何て能力だ!!」
そのエルフ機へ痛打を与えたベオの攻撃へ対して、驚愕した声を女オークは上げながら。
バゥ!!
騎士アーティナは自らのオルカス、それのコクピット・ドアーを開放させ、僅かに自機を引かせる。
「ならば、エルフもろとも打尽、無力化とにしてみせる!!」
ボゥウオ……!!
コクピット内へ入り込む強い夜風をその頬へと浴びながら、アーティナは自らの懐へ吊るしてある革の小袋へその手を差し込み。
「行け、ベヘモス!!」
懐中の、禍々しくに輝く宝石を夜の宙へと放り投げた。
「まさか!?」
予備燃料、液化霊力液を自機の燃料タンクへ注ぎ込ませる為のスイッチを覆う木製カバーを指で跳ね、そのボタンを押し。
ドゥ、ドゥク……
機体性能を維持しようとしていたエルフの若王子は、オーク女騎士が放った宝石、それへ眉間に強く皺を寄せつつに鋭い視線を向けた。
「封印石、魔物召喚か!?」
リィ……
そう叫ぶエルフ王子の近くへ、紅き月の光を浴びて輝くその宝石があたかも意思を持つかのように、身じろぎをしながら。
「この霊力波動、まさか魔喰いの!!」
グ、ニィ……
その形状を蠢かせながら迫りくる紫色の宝石。その封印石から逃げるかのようにディンハイドは己のPMスプリートの推進出力を上げ、自機を大きく宙へと翻えさせた。
シィ!!
封印石、魔石が音を立てて崩れ始め。
「魔喰いのベヘモスを呼び出すとは、オーク共はどういう了見だ!?」
その輝きに乱れを生じさせながら、塵となり周囲へ弾け飛んだ。
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