第38話 36~39層
36層から、また新たな変化があった。
といっても微々たる変化なのだが、それでもミロシュのような脳筋にとっては非常に都合の悪い変化だった。
出現するモンスターの防御力が上がったのだ。
ここまでに出てくるモンスターは、一部のものを除いてはあまり固くないモンスターが多く、ミロシュの大火力でゴリ押し出来ていた。
だが、36層から出現するモンスターは、全体的に防御力が高くなって、ミロシュといえどもゴリ押ししづらくなってきたのだ。
それでも、魔法や魔法銃による後方からの援護射撃と連携しつつ、落ち着いて対処すれば恐れるような相手じゃない。
実際、俺のパーティーではそうやって立ちふさがるモンスターを踏破していった。
細い廊下の前方に、俺達の行く手を遮るように赤い甲冑を身にまとったドクロのモンスター。
ブラッディスカルだ。
ランクはS。
俺は素早く二刀で斬撃を浴びせるも、血塗られた色の盾で弾かれてしまう。
だがそれでいい。
俺はあくまでヤツの足止めをしただけだ。
俺は瞬時にバックステップして、リディの魔法銃の射線上から離脱。
リディが魔法銃の引き金を引くと、白い光線がブラッディスカルの盾に命中。
すると、敵の盾が氷づけになった。
あれは氷弾だ。
しかし氷づけになった盾はすぐに溶けて元に戻ってしまう。
だが、俺にとってはその刹那の間だけで充分だ。
盾が元の状態に戻る前に再び敵の懐に飛び込んで二刀で一閃。
ヤツの盾が粉々に砕け散る。
左手ががら空きとなり、怯んだ隙にすかさず二撃、三撃と剣閃を叩きつける。
ブラッディスカルは崩れ去り、物言わぬ屍となった。
しかし、勝ったと思い込むのは早計だ。
「リュミヌー、浄化魔法を頼む!」
「わかりました!」
後方から弓で牽制攻撃をしていたリュミヌーがこちらに走ってきた。
そしてブラッディスカルの残骸の傍に正座して、天に祈るようなポーズをとった。
「祝福の神よ、聖女の祈りによりて悪しき魂を浄化せん、ピュリファイ!」
ブラッディスカルの骸が再び動き出す前に、リュミヌーの浄化魔法の光が骸を包み込む。
骸は光に吸い込まれるかのように消えていく。
このブラッディスカルというモンスターは、倒しても放っておくと復活してしまうのだ。
だからその前に浄化魔法で完全に消し去ってしまわねばならない。
36層以降のアンデット系モンスターは、基本的に皆そういう性質を持っていると見るべきだろう。
やはり、下の階層へ行くほど、敵はいやらしくなっていく。
「ふう、終わりました、アラドさま」
浄化魔法を終えたリュミヌーが、額の汗を拭いながら立ち上がる。
美しく滑らかな金髪がふわっと揺れて、俺の二の腕のあたり、ちょうど肌が露出している部分に触れる。
ついでに性欲をそそられる香りが俺の鼻孔を刺激して、場所をわきまえず変な感情が頭をもたげた。
ダンジョン攻略を始めてから、やはり禁欲的にならざるをえないから、色々溜まってくるのだ。
全てが片付いたら思いっきり発散してやる。
などと余計な事を考えているうちに階段のある広間に到着。
まだセリオス達の姿は見えない。
攻略中なのだろう。
一応共闘中なので、先に行ってしまうのは忍びない。
仕方ないので周囲を警戒しつつ、セリオス達の到着を待った。
30分程待って、ようやく廊下の向こうからセリオス達が歩いてきた。
だが、彼らの表情は一様に冴えない。
特にミロシュはあからさまにイラついている。
「くそっ! お前らの方が先に到着したのかよ」
「あら、遅かったじゃない。最強のアタッカー様」
ミロシュが悪態をつき、それに対してリディが皮肉めいた小言で返す。
「あのドクロ野郎が無駄にしぶとかったからな」
セリオスが溜息交じりにそう言った。
どうやらブラッディスカルに手を焼いていたらしい。
まったく……10層のデスクラブ戦で少しは懲りたかと思ったけど、相変わらず脳筋思考は変わらないんだな。
俺達のように冷静に対処すれば、そこまで手こずる相手じゃないはずなんだけどな。
「次こそはオレ達が先に攻略して見せるからな!」
ビシッと俺の方を指差してそう宣言するミロシュ。
いや、別に競争してるつもりじゃないんだが。
だが、俺達のパーティーに遅れをとったのが気に入らなかったのか、ミロシュはさっさと下へ降りて行ってしまった。
残ったセリオス達三人も慌てて後を追っていった。
「あのミロシュって人、私達の目的をちゃんと理解しているのかしら」
腕を組みながらリディがそう言った。
いや、恐らくあいつの頭の中は俺に勝つことしかないだろう。
「困ったものだな……」
溜息交じりのシャンテの一言。
同感だ。
だが、俺がいくら諭しても多分耳を貸さないだろうから、ほっとくしかないわけで。
気を取り直して俺達も下の階層へ降りた。
結局、39層までセリオスパーティーが俺達より先に攻略することはなかった。
「けっ!」
40層に続く階段を前にしてミロシュが舌打ち。
これで少しは謙虚になってくれれば、と思ったけどミロシュだしな……。
「オレ達の目的は『災禍の王』を倒すことだ。間違えるなミロシュ」
珍しくセリオスがミロシュを窘めた。
「わ、わかってるって」
頭をかきながらミロシュは渋々同意した。
なんだ、たまにはリーダーらしいことも出来るじゃん。
「よし、次は40層のボス戦だ。行くぞ」
「ああ」
俺の言葉にセリオスは短く返事した。
そして40層へと降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます