第37話 31層~35層

 セリオス一行と共闘する事になった俺達は31層から共に行動することに……ならなかった。


 あんまり大勢でゾロゾロ歩いていると小回りがきかないので、二手に別れて攻略した方がいいだろうとセリオスが提案したのだ。


 俺も反論する理由はないので了承した。

 最初のT字路をセリオス一行は右に、俺達は左に折れる。


 索敵スキルを発動させて前方の気配を探っていると、シャンテが難しい顔をして話かけてきた。


「……気になるな」


「うん? セリオス達のことか?」


「ああ、あのリーダーと刀使いの男、以前の戦いで瀕死寸前の重傷を負ったのにもう戦線に復帰してくるとは」


「まあ、確かにな。でも、あいつらの事だから特製のポーションとか使ったのかもな」


 セリオス達は王都を代表する勇者パーティーだから、金はたんまり持っているはずだ。

 普通の冒険者では逆立ちしたって手に入らないような、高級なポーションとかを買う余裕くらいはありそうだ。


「ふむ、だが、油断しない方がいいだろう。彼らも魔障の影響を受けているから」


「どういうことだ?」


 思わず疑問形で返したけど、だいたい察しはついている。


 魔障に冒されたということは、おそらく。

 シャンテはまるで俺の思考を読んだかのように、一つ頷く。


「お前が考えている通りだ、だから……油断するな」


 そう言ってシャンテは颯爽と先頭を歩いていった。


 31層を攻略しながら、俺はリディとロッティにセリオス達の事を話して聞かせた。

 リディは「ふーん」とかそっけない返事をしつつも、


「アラドを追放するなんて、見る目のないリーダーね」


 と、独り言のように呟いた。

 ロッティは相変わらず、何を考えているのかわからない。

 だが、僅かな表情の変化を読み取るに、セリオス達にあまりいい感情を持ってないみたいだ。


 まあ、すべては終わった事。

 今は一応共闘中なんだし、セリオスの悪口が出る前に適当に話題を切り替えた。


 31層をあらかた探索し終え、下に降りる階段がある広場でセリオス達と合流。


「何だ? お前ら収穫なしか?」


 ミロシュが薄笑いを浮かべながら言ってきた。


「何よ、そっちこそどうなのよ」


 たまらずリディが言い返す。


「見ろよこの刀! さっき宝箱からゲットしたんだぜ」


 ミロシュは一振りの刀を懐から取り出して見せてきた。


「まさかSR武器が手に入るとは思わなかったぜ。これでオレもパワーアップしてしまったわけだ。ま、『災禍の王』だか何だかとの戦いではオレに任せて、お前らはせいぜいサポート役に徹してくれよ」


 アハハハと高笑いしながら階段を降りていくミロシュ。

 つい一週間前10層のボスにボコられたくせによくあんな大口が叩けるな。

 あの自信はどっから出てくるんだ。


「何よあいつ、エラそうに!」


 リディが一つ舌打ちして憤慨する。


「ケンカはするなよ。最優先事項はあくまで『災禍の王』を倒すことなんだからな」


「わかってるわよ」


 俺が窘めると、リディは唇を尖らせてそう言った。



◆◆◆◆



 そんな感じで32層から34層までは、俺のパーティーとセリオスのパーティーで二手に分かれて攻略した。

 俺達の方はこれといって目ぼしい収穫はなかった。

 だが、セリオス達は宝箱からSRの武器や防具を手に入れたらしく、例によってミロシュがこれ見よがしに自慢してきた。


 リディは面白くなさそうにしていたが、戦力が上積みさせるのは悪いことではない。

 ただ、調子に乗らないかどうかだけが心配だが。


 35層はボスエリアで、初めて俺達は本当の意味で共闘した。


 35層で待ち構えていたのは、ゴールデンゴーレムという全身ピカピカの巨大な魔法人形だった。

 全長5メートルはあろうかという巨体に似合わず、その動きは俊敏だった。


 俺はテレーゼと協力してヤツのヘイトをこちらに引き寄せた。

 火力職が多いパーティー構成なので、俺は二刀流を封印して盾役に徹した。


 ゴールデンゴーレムが両手を飛ばして攻撃してくるのを、『カーバンクルの盾』でガードしながら耐える。


 さすがに35層ともなると、10層のデスクラブが雑魚に思える程その攻撃は重く、そして速い。


 だがテレーゼが槍スキル『防御結界』を使ってくれたお陰で何とか耐えることができた。


 そうやって俺とテレーゼが敵の攻撃を引き付けている間に、ヴェーネ、シャンテ、セリオス、ミロシュが敵の背後から波状攻撃を浴びせる。


 後方からはリュミヌーとリディ、それにヨアヒムが遠距離攻撃。


 さしものゴールデンゴーレムもこれだけの大火力を一身に受けては無事では済まないようだ。


 グラッと態勢が崩れ、前かがみになった一瞬の隙をついて、ミロシュが刀を構え疾駆。


「でりゃああああ!!」


 ゴールデンゴーレムの黄金色のボディを一刀両断。

 集中砲火で脆くなった部分にミロシュの刀が食らいつき、そのまま引き裂く。


 轟音を響かせながら、ゴールデンゴーレムは崩れ去る。


「どうよ、オレの刀技は」


 得意げに刀をしまって悦に浸るミロシュ。

 そして、ゴールデンゴーレムの残骸をあさり始めたかと思うと、金塊などの戦利品を取って自分のアイテムポーチにさっさと放り込んでしまった。


「オレのお陰で倒せたんだから、戦利品は当然オレのモンだよな」


 ハハハと笑いながら、ミロシュは次の階層へと歩いていってしまった。

 セリオス達も遠慮がちに慌ててその後を追う。


 盾をしまい、一息つく俺の傍にリディが近づいて、囁いた。


「何よあいつ、頑張ったのは皆一緒なのに、まるで自分一人の手柄みたいに……」


 リディが憤慨するのもわかる。

 だが、ミロシュが増長するのも仕方ないといえば仕方なかった。


 あいつが31層で入手したというSRの刀『白竜刀・真打』の攻撃力はずば抜けており、ゴールデンゴーレムの分厚い装甲を物ともしていなかった。


 ダメージディーラーとしては間違いなく優秀なのだ。


 増長しがちなのが、たまにキズなのだが……。


 上手く連携していけるのだろうかと不安になりながらも、俺達もセリオス達の後を追って36層へと降りた。

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