第35話 さらに深層へ

 20層のボスはアーリマンという巨大な目玉が特徴的な悪魔系モンスターだった。


 四本足で素早く動き回る、まるで蜘蛛のようなモンスター。だが蜘蛛よりも巨大で、全長3メートルはあるだろうか。


 アーリマンの主な攻撃手段は巨大な目玉から発射される怪光線だ。

 躱すと轟音と共に地面が大きくえぐれる。

 凄まじい威力だ。

 もしまともに当たったら俺やシャンテはともかく、リュミヌーやリディはひとたまりもないだろう。


 だが、俺が挑発スキルでアーリマンの注意を引き付けているお陰で、後方に攻撃が向かうことはない。

 俺はアーリマンの動きの隙をついて二刀流でダメージを与えていく。

 左手の闇剣ダークアスカロンがアーリマンの胴体を切り裂く。

 緑色っぽい液体が傷口から飛び出る。

 着地し、もう一撃浴びせようと振り返ると、ヴェーネが大剣ですかさず追撃してくれていた。

 いい連携攻撃だ。

 ヴェーネの攻撃を受けてアーリマンはその場に沈みこんで、動かなくなった。


 大剣を背中に納めて、ヴェーネはこちらを向いて口角を上げる。

 迷宮に来てからいまいち冴えなかったヴェーネだが、ようやく本来の調子を取り戻してくれたようだ。

 彼女もずっと勇者パーティーの一員として活躍していたのだ。

 面目躍如ってとこか。


「さ、どんどん行きましょー!」


 ヴェーネは元気よく下の階段まで歩いていった。

 あの調子ならもう心配はいらないな。

 俺も彼女の後を追って下の階層へ。


 ヴェーネが立ち直ったお陰で、21層からの探索は危なげないものとなった。

 彼女は決して先走ることなく、冷静に事態に対応していった。

 時に脇が甘くなりがちなリディを的確にフォローしつつ、モンスターとの戦いでは火力として果敢に前線を切り開いていく。


 俺とのコンビネーションでさらに殲滅速度が上がり、瞬く間に25層に辿り着く。

 25層のボス、マンティコアは顔は人間でライオンのような胴体をしたモンスターだった。

 マンティコアの爪攻撃を躱しつつ、俺は二刀流、ヴェーネは23層で手に入れたSRの武器、雷剣プロメテウスを構え、同時にマンティコアに斬りかかる。


「いくぞ! ヴェーネ」


「遅れないでよ、アラド!」


 俺とヴェーネはマンティコアめがけて走り、すれ違いざまに切り伏せた。

 二人の剣閃がクロスしてマンティコアの胴体を切り裂くと、マンティコアは不気味な断末魔を残して絶命した。


 そのままの勢いで30層まで攻略し、そこでキャンプにした。


 今晩の飯はモンスターの肉だ。

 肉料理ばかりで正直飽きているが、まあ迷宮の奥深くだし他に目ぼしい食材も手に入るはずもないわけで。

 みんな肉料理に飽きてないかちょっと気になってはいたが、幸いリディもロッティも文句を言わずもぐもぐと食べている。


「ねえ、なんか心なしか空気が悪くなってきた気がしない?」


 リディがふいにそんな疑問を口にした。

 言われてみれば、20層あたりのころはあまり気になっていなかったが、21層に降りてきた頃からどことなく空気が重苦しくなってきたような気がしていた。

 だが俺は常に周囲の警戒のため神経を尖らせていたのであえて口にはしなかったが。


「おそらく魔障の影響が強くなってきているのだろう」


 シャンテはあくまでクールな口調でそう答える。


「このまま下に降りていったら私達まで呪われたりしないでしょうね」


「いや、極端に濃度の濃い魔障の霧でも吸い込まない限り大丈夫だろう。だが万全を期すため何か特効薬でも用意した方がいいかもしれんな」


 心配顔で魔障の影響を懸念するリディに対してシャンテはそう返答。

 特効薬か。

 俺は薬の調合術は本当に基礎的なものしか出来ない。

 ヴェーネに至っては、調合術はおろか初歩の回復魔法すら出来ない。


「特効薬は材料さえあれば私が調合できる」


「本当か? シャンテ」


「問題は材料がこの迷宮で手に入るかだが、な」


 なるほど。

 だがこの迷宮にはレアなアイテムが入った宝箱があちこちにあるから運が良ければ手に入るかもな。


 30層はボスフロアなので、他のザコモンスターは出現しない。

 なので襲われる心配もなく、俺達は30層で一晩過ごした。

 そして次の日、俺達は31層へと降りる。

 更に空気が重苦しくなった。

 今ここで無理して攻略するより、一旦ここで引き換し魔障対策をした方がいいだろうか。


 そう考えていると、背後に気配を感じ、振り返る。


「お、お前は!」


 そこに立っていたのは、勇者パーティーのリーダー、セリオスとその一行だった。

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