第33話 罠

 19層の探索をあらかた終えた。

 ここまでの戦利品は、

 スカルロードナイトの盾×4

 ソウルジェルの核×8

 リビングアーマーの破片×5

 アビスジャッカルの牙×2

 ブラッドコウモリの羽×10


 これらはアイテムポーチに放り込んである。

 迷宮を出て王都の取引所に持っていけば、金になる。

 この迷宮のモンスターはAランク以上の強敵ばかりだから、これらの素材は売れば莫大なお金になるだろう。

 今後の冒険の軍資金としては申し分ないはずだ。

 もしかしたら、田舎に土地を買って、家を建てることだって出来るかもしれない。

 俺とリュミヌーの家。

 『災禍の王』を倒したら、考えてもいいかもしれないな。

 まあ、今は災禍の王を倒すことに専念だ。


「うわっ! キモっ!」


 リディが前方で行く手を塞ぐゾンビ型のモンスター、ダークコープスが横一列にズラッと並んでいるのを見てひきつった顔をする。

 ダークコープスは両手を前方に突き出して一斉にこちらに走ってきた。


「いやーー!!」


 涙目になりながらリディは俺の背中にびったりくっついてきた。


「ひょっとして怖いのか?」


「う、うるさいわね、苦手なのよ、お化け……。はやくやっつけなさいよ」


 やれやれ、人使いの荒いドワーフ族だこと。

 俺はに二本の片手剣を抜いて構える。

 次の階層は20層だからボス戦だ。

 この辺で一度試してみるか。

 俺はダッシュしてダークコープスの群れに接近すると、大きくジャンプして二刀をクロスさせるようにして振り下した。


『セイクリッド・エッジ』!!


 白光に輝く剣閃がダークコープスの群れに炸裂。


「グオオオオ!!」


 ズドドドドド!!!

 床が十字に裂け、白い光がそこから天上に向かって吹き上がる。

 ダークコープスの群れは爆風で四方八方に蹴散らされて消滅した。


 俺は着地すると二刀をビュンビュンと振って納刀した。


「見事だ、『セイクリッド・エッジ』をもう完全に使いこなしているな」


 シャンテは不敵な笑みを浮かべて声をかけてきた。


「シャンテ、これで『災禍の王』に通用すると思うか?」


 そう訊くと、シャンテは少し黙考して、


「残念だが、『災禍の王』を倒すには、まだ威力不足だ」


「そうか……」


 やはりこの程度ではまだダメか。


「だが、100層までまだあるから、道中のモンスターで戦闘経験を積めばいい」


「そうだな」


 戦闘経験の少ないリュミヌーとリディのレベルあげは当然するとして、主力である俺とヴェーネも経験を積む必要があるな。


 そんな事を考えていると、俺の後ろにくっついていたリディがいつの間にかロッティのところまで移動していた。


「ロッティ、整備お願い」


「……ん」


 リディがロッティに魔法銃を渡すと、ロッティはその場にしゃがみ込んでカバンから工具を取り出し整備を始めた。

 瞬く間に整備を終え、魔法銃がリディの手に戻る。


「うん、これでよし、ありがとうリディ」


「……ん」


 明るい笑顔でお礼を言うリディに、無表情のまま頷くロッティ。


「準備はいいか?」


「もちろんよ」


 魔法銃を腰のホルスターにしまいながら頷くリディ。

 彼女はすたすたと俺の先を歩いていき、ふと足を止めてチラッとこちらを振り返る。


「さ、さっきは助けてくれてありがと……」


 そう言うとリディはみるみる赤面し、慌てて前を向いた。

 思わず笑みがこぼれる。

 さあ、20層はもうすぐだ。

 俺達は下の階層へ続く階段がある広間を目指す。

 だが、広間までの廊下を塞ぐように、再びダークコープスの群れが地面から湧き上がってきた。


「ちょ、ちょっと! どんだけ出てくんのよっ!」


 文句を言いつつ俺の後ろに隠れるリディ。

 やれやれ、ここはもう一変『セイクリッド・エッジ』で手っ取り早く蹴散らしてやるか。

 そう思って抜刀し、奇妙な違和感を感じて足を止める。


「アラド、ここは私に任せて!」


 大剣を両手で握りしめ、ヴェーネが先陣を切った。


「ヴェーネ! 待て!」


「えっ!?」


 俺は慌てて飛び出したヴェーネを引き止めようとして手を伸ばして彼女の左手を掴む。

 しかし、ヴェーネが踏んだ床が突然赤く光りだし、俺とヴェーネはその光に包まれた。


「こ、これって……」


「転移トラップ!?」


 なすすべもなく、俺とヴェーネはその場から消滅した。

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