第32話 異変
14層を突破し、俺達は15層に辿り着いた。
迷宮は5層ごとにボスの待ち受けているフロアとなっているから、15層にも当然ボスが鎮座していた。
15層のボスはアビスジャッカルという狼型のモンスターだった。
紫色の体毛をした不気味な姿をしており、さながら地獄の番犬を連想させる。
俺とシャンテが前衛となり、ヴェーネが中衛、リュミヌーとリディが後方支援。その更に後方に非戦闘員のロッティが待機しているという陣形をとった。
「いくぞ! シャンテ」
「ぬかるなよ、アラド」
俺は二刀流、シャンテは片手剣一本を持って、一斉にアビスジャッカルへと襲い掛かる。
「くっ、さすがに速いな。だが!」
アビスジャッカルの敏捷性に翻弄されそうになりながらも、俺は決定的な隙を見せることなく敵に剣戟を浴びせ、体力を削っていく。
「うむ、いい動きだ」
アビスジャッカルの噛みつき攻撃を片手剣でいなしつつ、俺の戦いを見て頷くシャンテ。
「あんたの地獄の特訓のお陰だよ」
以前の俺ならとても奴の動きについていけず、手も足も出ないままやられていたに違いない。
だがシャンテから特訓を受けた今の俺には、15層のボスですらぬるいとすら感じるようになっていた。
「てえええい!!」
勢いよく二刀の連続攻撃を浴びせると、アビスジャッカルはさすがに分が悪いと思ったのか、距離を取った。
ここは慎重に攻めるべきだ。
そう判断し、二刀を構えて様子見していると、いきなり中衛のヴェーネが大剣を構えて飛び出していった。
「アラド、チャンスよ! いくわよっ!」
「あ、馬鹿待て!」
ヴェーネが自らの背丈ほどはあろうかという大剣を軽々と振りかぶり、アビスジャッカルに斬りかかる。
だが、奴を捉えるには遅い。
ヴェーネの大剣が空を斬り、床を砕く。
「なっ!?」
無防備になったヴェーネの背中にアビスジャッカルの凶牙が迫る。
だが――。
『剣狼連牙』!!
俺の二刀が十字の剣閃を残してアビスジャッカルの胴体を切り裂いた。
「グオオオオ!!」
アビスジャッカルが地面に伏せ、表情を苦痛にゆがませる。
すかさずシャンテが追撃の一閃。
「リュミヌー、リディ! 今だ!」
俺のかけ声を合図に後方からリュミヌーとリディが同時に攻撃を放った。
リュミヌーの『ジャストショット』とリディの『魔法銃』が、アビスジャッカルを貫いた。
バシューン!! ズドドドドド!!
「ウオオオオン!!」
断末魔の叫びを響かせながら、アビスジャッカルは絶命した。
◆◆◆◆
15層の大広間で俺達は休憩することにした。
焚き火を囲んで、先ほど倒したアビスジャッカルの肉を串刺しにして焼く。
辺りに香ばしい匂いが広がる。
「ねえ、アラド、本当に食べるの? ボスの肉なんか」
「いらないなら無理に喰わなくてもいいぞリディ」
「別に食べないなんて言ってないわよっ!」
そう言うとリディは俺からむんずと串刺しを奪い取る。
「ごくっ……」
リディはしばしアビスジャッカルの肉を睨み、意を決してはぐっと一口。
「ん……おいしい!」
苦虫を嚙み潰したようなリディの顔がみるみるごきげんになっていく。
「強いモンスターの肉ほど上手いもんなんだぞ」
「へえ……」
感心しながら、もぐもぐと美味しそうに肉を頬張るリディ。
隣に座っているロッティは、相変わらず無表情で淡々と食べている。
呪われてた時と大して変わらなくないか、この子。
「アラドさま、おいしいですね」
「ああ」
リュミヌーは俺のすぐ隣に座り、笑顔で肉を食べている。
ふと正面を見ると、ヴェーネが俯いたまま黙っていた。
肉にも手を付けないし、何だからしくないな。
「ヴェーネ、大丈夫か?」
声をかけるとヴェーネは慌てて顔を上げる。
「え、な、何でもないわよ。それより、さっきのボス戦では先走っちゃって迷惑かけたわね、ごめん」
「いや、別にいいけどよ……。お前にしてはらしくないミスだったな。本当に大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫! それより肉食べないとね。わーおいしそう! いただきます!」
いつもの調子を取り戻したヴェーネが肉を頬張る。
だが、俺には無理して空元気を出しているように見えたのだが。
肉を食べ終え、俺達は15層の大広間でテントを張り、一泊することにした。
村からイザルス山脈の頂上まで歩いて、15層までぶっ通しで来たのでリディ達は疲れているだろうと判断したのだ。
一泊し、テントを片付けると16層に降りる。
16層は特に問題なくクリアし、そのまま一気に17層も突破した。
この調子なら今日はもっと下の階層まで行けそうだ。
だが、好事魔多し。
19層に辿り着き、いよいよ20層のボスを目前にした所で、俺達のパーティーは二つに分断されてしまうことになる。
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