第31話 アラドパーティー、出陣
古の地下迷宮、その10層にワープした俺達は、大広間を横切って下の階段まで歩いていく。
ふと左の方を見ると、1週間ほど前のデスクラブ戦の爪痕がまだ残っていた。
俺の隣にいるヴェーネが話を振ってきた。
「そういえばセリオス達はもう迷宮を脱出したのかな」
「たぶんな」
セリオスとミロシュは重傷を負っていたので、多分しばらく戦線復帰はできまい。
まあ復帰してきた所で共闘することはないだろうが。
王都テルネアから他の勇者パーティーが来ているかと思ったが、今のところ来ているのは俺達だけのようだ。
やはり、王都を代表する勇者パーティーであるセリオス達がやられたからか、慎重になっているのかもしれない。
他パーティーからの援護は期待できず。
となれば必然的に俺達が『災禍の王』を倒すしかないわけだ。
元よりそのつもりだったけどさ。
「ああーっ!! しまったあー!!」
俺の少し後ろを歩いていたリディが突然大声を出したので、ギョッとして思わず振り返る。
リディは頭を抱えて苦悶の表情を浮かべていた。
「な、なんだよ!? 急にでかい声だして……」
「チロルちゃんを連れてくるのを忘れたあああ!!」
ああ、ペットの犬のことか。
「あの犬は村長の家で預かってもらってるから大丈夫だよ」
「しまったー、モフモフできないー!!」
リディは俺の話を聞かずに騒いでいる。
「そんなにモフモフしたいのかよ」
「うん! 1日1回はしなきゃ調子でないのよ!」
自慢することかよ。
まあ、モフモフしたい気持ちもわからなくはないけど。ちょっとだけな。
「村に戻れば好きなだけ出来るんだから、我慢しろよ」
「うー……わかってるわよ」
悔しそうにうめき声を出すリディ。
「アラドさま」
リュミヌーが俺の右隣に並んで、手を繋いできた。
「おいおい、ここは迷宮だぞ」
リュミヌーの奴、迷宮攻略をデートだと勘違いしてない、よな……。
「わかってます。でもちょっと不安になってきたので、少しだけ手を握っててくれませんか」
「リュミヌー……、わかった」
10層のボスでさえあの強さだったのだ。
これから更に下の階層に潜ろうとしているんだから、不安になるのも無理はないよな。
俺は差し出されたリュミヌーの左手をギュッと握り返す。
「おふたりさん、お熱うございますね」
何だかとげのある言い方でヴェーネが声をかける。
「い、いいだろ別に……」
「ふんっ!」
不機嫌そうにぷいとあっちを向いてしまった。
ったく、何でそんなに突っかかってくるんだ、こいつ。
「お前達、ここは迷宮だぞ、気を引き締めろ」
前を歩くシャンテのクールな声が飛んできた。
「おう、すまない」
再び気合いを入れ直し、俺達は11層への階段を降りていった。
◆◆◆◆
「今だっ! リュミヌー!」
「はいっ!」
11層のモンスター、スカルロードナイトの盾を二本の片手剣でいなすと、素早くバックステップしてリュミヌーにスイッチ。
盾を弾かれてがら空きになった敵の急所を、リュミヌーの弓スキル『ジャストショット』が緑の光を曳きながら真っ直ぐに貫いた。
「グオオオオ!!」
不気味な断末魔を遺してスカルロードナイトは崩れ去り、黒い霧になった。
「ナイスだ! リュミヌー」
「はいっ、アラドさまのサポートのお陰です」
リュミヌーの頭を撫でてねぎらってやると、嬉しそうに顔を紅潮させた。
「ほう、やるじゃないか、リュミヌー」
シャンテも今のリュミヌーの戦いに関心している。
リュミヌーもシャンテに褒められて嬉しそうだ。
『災禍の王』を討伐するには、現有戦力の底上げが急務だ。
そのために、まだ戦闘経験の少ないリュミヌーに経験を積ませる必要がある。
だから俺はあえてモンスターにとどめを刺さず、リュミヌーにフィニッシュを任せているのだ。
リュミヌーの成長速度は著しく、このまま経験を積んでいけばパーティーの戦力として充分計算できるようになるだろう。
11層もあらかた探索しつくしたので、そろそろ次の階層に進もう。
そう考え、俺達は下の階段がある広場に向かった。
12層も迷路のようになっていて、徘徊するモンスターはソウルジェルというスライムのようなモンスターだった。
片手剣や弓による物理攻撃に耐性があったので、リディの魔法銃で焼き払って貰った。
「どう? 私とロッティの魔法銃の威力は? 連れてきてよかったでしょ」
ドヤ顔で魔法銃をしまうリディ。
だが、13層のモンスター、リビングアーマーに魔法銃を打ち込むと、鏡のような盾でレーザーを反射されてしまった。
「うそっ!? そんなのアリ!?」
「モンスターに俺達の常識は通じない。用心しろよ」
リビングアーマーを光剣グレイセスで斬り伏せつつ忠告すると、リディは「わ、わかったわよ……」と呟いて顔を伏せてしまった。
適材適所。お互いに長所を生かして弱点を補い合う。
これがパーティーというものだ。
それが少しは理解できたのか、どこか浮ついていたリディの表情に真剣みが帯びてきた。
「さあ、先を急ぐぞ」
俺達は14層への階段を降りていった。
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