第28話 リーダー就任

 魔障の呪いが解けて正常に戻ったロッティに、俺達は改めて自己紹介した。


「うちはロッティ。よ、よろしく……」


 弱々しくそう自己紹介して、ロッティは俯いてしまった。


「ごめんなさい、この子、人見知りが激しくていつもこんな感じなの」


 姉のリディがフォローする。

 呪いにかかっている間の頃と大して変わらないテンションに、ちょっと戸惑ったが……、そういう事ならまあ、仕方ないか。


 それはそうと、さっそく本題に入ろう。


「なあ、ロッティ、ちょっと頼みがあるんだが」


「な、なんでしょうか!?」


 ロッティは少し後ずさりながらそう言った。

 いや、そんな怯えなくても……。


「この村の入口にある魔導砲を直して欲しいんだ。出来るか?」


「魔導砲!?」


 その単語を聞いた途端、スイッチが入ったようにロッティの表情が真面目になった。

 そして、返事も忘れてカバン一つ持って家の外に出て行ってしまった。


「あ、おい! ロッティ!」


「大丈夫よ。あの子、機械いじりのことになると人が変わるから」


 苦笑交じりにそう呟くリディ。

 まあ、それならいいんだけど……。

 とりあえず、様子を見に行くか。

 俺もロッティの後を追って家を出た。



◆◆◆◆



 村の入口に行ってみると、ロッティが物凄い勢いで魔導砲を直していた。

 一心不乱に工具を操り、魔導砲をみるみるうちにいくつかのパーツに分解していくロッティの姿は、さながら疾風のようだった。

 金槌が金属を叩く甲高い音が辺りに響く。

 その音を聞きつけて、何事かと村人達が様子を見に続々と集まってきた。

 だがロッティは、そんなギャラリーなど意に介さずひたすら作業をこなしていく。

 しばらく彼女の作業を眺めていると、ロッティは急に手を止めてこちらを振り向くと、


「もうちょっと時間がかかる……」


 無愛想にそれだけ言い残して再び作業に戻る。

 目がまるで何かにとりつかれたみたいになってて、少し怖かった。


「ふふっ、あの子ああなるとぶっ通しで仕事に夢中になるのよ」


 ロッティの作業を見ながらリディは言う。

 何だか誇らしげだな。

 そりゃ、俺だってこんな凄い職人仕事、見たことないからな。


「……よし、ロッティの仕事を邪魔しちゃ悪いから、終わるまで向こうで修行でもするか」


 俺は村の外に出た。

 リュミヌーにヴェーネ、それからシャンテの3人と一緒に模擬戦をする。


「アラドさま、参ります!」

「ああ、いつでもこい」


 銀弓フレイアボウを構え、精神統一するリュミヌー。

 リュミヌーが弓を放つ。

 幾筋もの光の矢が俺めがけて飛んでくる。

 俺はその光の矢を次々と片手剣で撃ち落としていく。


「さすがです、アラドさま!」


 俺に技をはじかれたのに、まるで我が事のように喜ぶリュミヌー。


「いや、リュミヌーの方こそ、この短期間にここまで弓スキルを使いこなすなんて大したものだ」


 リュミヌーが顔を赤らめてもぞもぞする。

 それにしても、しばらく見ないうちにすっかり弓使いとして板についてきたなあ。

 これなら、戦力として十分頭数に含めても問題ないだろう。

 回復魔法も使えるしな。


 俺がリュミヌーの成長に目を細めていると、ヴェーネが近づいてきた。


「ねえ、アラド」


「何だ? ヴェーネ」


「忘れてないでしょうね? こないだの話のこと」


 こないだの話?

 何だっけ。


「ほら、アラドがリーダーのパーティーを結成するって話!」


「ああ、それか」


 そう言えば、以前そんな話をしていたな。

 その時は結局保留にしたんだっけ。


「うーん、そうだなあ」


 俺がリーダーのパーティー。

 メンバーはヴェーネにリュミヌーに、それからシャンテか?

 おそらくこの4人で災禍の王に挑みに行くんだから、一応リーダーを決めておいた方がいいのかもしれないな。


 とはいえ、俺はリーダーなんて器じゃないんだけど。


「アラドさま、わたしもアラドさまがリーダーになるのがいいと思います」


 リュミヌーまで俺をリーダーにしたがるか。

 まあリーダーといっても形だけで、実際にパーティーの方針を決める時は、みんなと相談して決めればいいか。


「ま、みんながそう言うなら、引き受けてもいい」


「うん! じゃあ決まりねっ、リーダー」


 ヴェーネはニコッと笑顔でリーダー就任を祝福してくれた。

 リュミヌーも拍手している。


 そして1時間程して、リディが呼びにきた。

 どうやらロッティの仕事が終わったらしい。

 俺達は村に戻った。

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