第26話 解呪方法は……
「本当かシャンテ、この子が魔障に冒されているってのは?」
俺がそう聞くと、シャンテはこくりと一つ頷いた。
「ああ、間違いない。古の地下迷宮にいた例の冒険者達と同じだ」
例の冒険者達とはセリオス達のことだ。古の地下迷宮の10層でボスと戦って敗れ去ったあの。
「治せるの? シャンテお姉さん」
リディが期待に胸を膨らませたような表情でシャンテに訊ねる。
「治す方法はあるにはある、が……」
やけに歯切れの悪い言い方をして渋面を浮かべるシャンテ。
「魔障とは一種の呪いのようなものだ。なので治療するには解呪魔法を使ってやればいい」
「解呪魔法か……」
解呪魔法とは、その名の通り呪いを解除する魔法で、物理的な傷を治す回復魔法や毒とか麻痺といった状態異常を治す治癒魔法などと同じ系統の魔法だ。
オールラウンダーである俺は簡単な回復魔法や治癒魔法の心得はあるものの、解呪魔法ともなるとちょっと専門的なので使えない。
「シャンテは解呪魔法を使えるのか?」
「いや、残念ながら私は使えない」
「じゃあヴェーネは?」
「大剣使いの私が使えるわけないでしょ」
確かに大剣使いは魔法が不得手な傾向こそあるが、全く使えないわけじゃないからな。ひょっとしたらと思ったけどやっぱダメだったか。
「回復系の魔法が得意な職業っていうと、弓使いとか十字架使いとか?」
腕を組みながらヴェーネがそう言った。
十字架使いとはそのものズバリ十字架を使用武器にしている者のこと。十字架とはもちろん、教会の神父が持ってるあの十字のアクセサリーみたいなやつのことで、一応あれもれっきとした武器の一種なのだ。
あんまり武器らしくないかもしれないが、それを言ったら杖だってよく考えれば武器じゃなくて、足の悪い人が使う歩行補助具じゃないか。
でも杖が武器として認められているのは、攻撃魔法を使うのに適しているからである。十字架もそれと同じ理屈で、回復魔法を使うのに適しているから武器と見なされている。
まあそれはともかく、今この場に解呪魔法の使い手はいないらしい。
となると……。
「教会の神父に頼むしかないか」
シャンテの言う通り。
普通どんな街にも教会があって、教団から派遣された神父がいるはずだ。神父は回復系魔法の修行を積んでいるもので、状態異常や呪いといったバッドステータスにかかり、自力で治療する手段を持たない冒険者は教会のお世話になる。
ただし安いとは言えないお布施が必要なんだけど。
教会の神父は回復魔法も心得ているから、状態異常だけじゃなく肉体的な怪我も治してもらえるが、お布施が馬鹿にならないので、よほどの大怪我でもない限り、普通は宿屋に泊まって傷を治す。
ここルバンツの街は職人の街だが、さすがに教会くらいはあるだろう。
リディに聞いたところ、実際に教会は街の中央区にあるらしい。
「でも、あんまり期待できないかもね……」
溜息交じりにそう呟くリディ。
「どういうことだ?」
「行ってみればわかるよ」
浮かない表情のリディとロッティを伴って、俺達は街の中央区にあるという教会へと向かった。
◆◆◆◆
「ええっ!? 出来ない!?」
「ええ……、私はなにぶん今年神学校を卒業したばかりの若輩者でして……。ご期待に応えられず申し訳ありません……」
そう言ってまだ年若い教会の神父は深々と頭を下げた。
どうやらここの神父はまだ半人前らしく、回復魔法も治癒魔法も最低限のものしか使えず、解呪魔法など望むべくもないらしい。
「なんでこんな半人前の神父が派遣されてくるのよ」
ヴェーネが声を荒げる。
「ここ最近のモンスターの凶暴化の影響で被害を受ける人が増えて教団は今深刻な人手不足なのです……」
肩を縮ませながら若い神父は消え入りそうな声でそう言った。
こんな形で災禍の王の悪影響が出ているのか……。
「じゃあ解呪魔法が使える神父はどこにいるんだ?」
「それは、残念ですが私のような下っ端には誰がどこの街に派遣されているかまではちょっと」
「まあ、そうだろうな」
さて、困った。
解呪魔法を使える神父を探して片っ端からあちこちの街を回るのは、あまり上手いやり方とはいえないよな。
他に手がないなら、最悪そうするしかないんだけど。
「ねえ、どうする? アラド」
「うーん、こうなったら、リュミヌーに賭けるしかないか」
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