第13話 迷宮へ

 村の入口で負傷したヴェーネと再会した俺は、村長の家まで彼女を連れて行った。


 ラディウス村長に事情を説明して、ヴェーネをリュミヌーの部屋(俺達の部屋、と言った方が適切か)まで運んでベッドに寝かせる。


 今はリュミヌーの回復魔法で応急処置を施している。


「悪いわね、迷惑かけて」


「とんでもございません。お気になさらずに」


 俺の幼馴染にかいがいしく回復魔法をかけるリュミヌー。


 それにしても、ラディウス村長はよく人間であるヴェーネを家に入れるのを許してくれたな。

 人間は自分達エルフ族を迫害している急先鋒だと言うのに。

 迫害を受けている者は弱者や困っている者、傷ついている者の気持ちが理解できるから、他人にも優しくできるんだろうな。


 しばらくして、リュミヌーの応急処置が終わった。


「これでひとまず大丈夫なはずです」


「うん、ありがとう。お陰で大分楽になったわ」


 ヴェーネは自分の手足の感覚を確かめるように軽く身体を動かす。


「それで、お前どうしてこんなところに来てるんだ」


 俺は壁に寄りかかって腕組みしながらヴェーネに質問。


「アラドは旅先で噂を聞いてない? イザルス山脈の近くでSランクダンジョンらしきダンジョンが見つかったって」


 そう言えば、そんな話をどこかで耳に入れたな。


「私達もその話を王都で入手して、イザルス山脈まで向かったの。そしたらそのダンジョンを発見して、さっそく探索してみたの」


 私達とはセリオス率いる勇者パーティーのことだ。俺も最近まで所属していた。


「中は巧妙に仕掛けられた罠と恐ろしいモンスターが待ち構えていた。それでも私達は難なく突破できたんだけどね……5層までは。でも、6層からモンスターの強さが急激に強くなって、私達でも苦戦するようになったの」


「まさか、Sランクモンスターか?」


 まだ誰も見たことのない、伝説級のモンスター。それがSランクモンスターだ。

 ヴェーネはかぶりを振った。


「違う、鑑定してみたらAAランクだった」


 AAランクか。

 セリオス達と同じランクだな。


 一応セリオス達は王都でも三本の指に入る凄腕の勇者パーティーなんだけどな。

 そんなセリオス達でも苦戦するほどの強敵か。


「苦戦しながらも私達は何とか進んで行った。もしこのダンジョンがSランクダンジョンだったら、攻略すれば私達は世界一の冒険者として英雄になれるもの。だから引き返そうなんて考えなかった。でも10層にたどり着いて、ついに私達でもどうしようもない、AAAランクモンスターが現れたの」


 マジか!?

 AAAランクモンスターなんて、おそらく誰も戦ったことないんじゃないか。

 少なくとも、王都で活動している冒険者の中にはいないはずだ。


「まさに死闘だったわ。こっちの攻撃が全然効かなくて……、全滅を覚悟した時、私うっかりワープのトラップを踏んじゃって、たまたまダンジョンの入口に飛ばされたから、どうにか九死に一生を得たってわけ」


 ダンジョンを脱出したヴェーネは、山を降りてさまよってるうちにこのキィンロナ村に辿り着いたのか。


「脱出できたのはヴェーネだけか? セリオス達はどうした?」


「わからない、彼らもどこかに飛ばされたと思うけど……」


「そうか、で、そのダンジョンはどこにあるんだ」


「ここよ」


 そう言ってヴェーネは地図のある一点を人差し指で指し示す。

 イザルス山脈の少し西側か。


「あ! そこは、古の地下迷宮があるとこです!」


「本当か? リュミヌー」


「はい」


 古の地下迷宮といえば、ハーフエルフのシャンテが行方不明になった場所だな。

 そしてセリオス達もそこにいると。

 AAAランクモンスターがうろついているダンジョンなんて危険すぎるが、探索するだけなら何とかなるか?


「リュミヌー、シャンテが生きてるかどうかわかるか?」


「そのダンジョンの近くまで行けば、魔力を感知して確認できます」


 じゃあ、とりあえずリュミヌーと一緒にその古の地下迷宮とやらの近くまで行ってみるか。そしてもしシャンテが生きているのなら、中に入って救出しよう。

 セリオス達は……、まああいつらは王都でも数少ないAAランク冒険者だ。きっと自分達でどうにかするだろう。もし怪我してるのを見つけたら助けてやるか。


 問題はこの村の護衛だけど。


「ヴェーネ、身体の調子はどうだ? どうしても動けないほどひどいか?」


「ううん、そんなことない。リュミヌーに応急処置してもらったから、動けないことはないわ。まあ、あんまり無茶は出来ないけどね」


「そうか、じゃあヴェーネに頼みがある。俺はこれからリュミヌーと一緒にそのダンジョンまで行ってくる。俺達が留守の間、この村の護衛をして欲しいんだ。できそうか?」


 俺の質問にヴェーネは少し考えて、


「うん、少しの間なら大丈夫だと思う」


「すまない」


「その代わり、帰ったらマッサージでもしてもらうわよ!」


 そう言ってヴェーネはニコッと笑った。


「わかった」


 俺もそれに微笑で返す。


「じゃあ、行くか」


「はいっ!」


 俺とリュミヌーはさっそく旅の支度を整えると、キィンロナ村を出発した。

 目指すは古の地下迷宮。

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