第12話 再会

 俺がキィンロナ村で護衛の仕事に就いてから一週間経った。


 この一週間、俺は主に村の入口に立ってモンスターが来ないか見張っていた。

 もし強力なモンスターが襲ってくればそいつを倒すのが俺の仕事なのだが、結論から言うと今のところ一度も戦闘を行っていない。


 村長の話によれば、この村の周囲には強力な結界が張ってあってそのおかげでモンスターが入ってこれないようだ。

 それじゃ俺が護衛してる意味ないじゃんと突っ込むと、桁違いに強い(多分Aランク以上)モンスターなら結界を突き破って侵入してくるらしい。

 実際、そういうケースは何度かあったそうだ。


 あと、その結界を張ったのは、やはり行方不明になったハーフエルフらしい。

 どんだけチートなんだよ。

 ただ、結界は時間と共に薄れていっていつかは消滅してしまうそうだ。


「だからアラド殿には、一刻も早く次世代のハーフエルフを作って欲しいのです」


 そう俺に子作りを催促してくるラディウス村長。


 もちろんそっちも頑張っているつもりなんだが。


 この一週間、俺は村人達と出来るだけ話をした。

 何か変わったことはないかとか、世間話とかいろいろと。

 村人達との円満な人間関係作りも大事だからな。


 村人達は、特に変わったことはない、と言っていた。

 平和なのはいいことだ。

 だが、「しいて一つあげるとすれば……」と前置きした上で、


「夜中になると若い女性の絶叫する声が、村長の家から響いてくることくらいですかね、変わったことと言えば」


 と教えてくれた。


 すまん、それは俺とリュミヌーが毎晩励んでいるせいだ。


 そして、村長からも、


「アラド殿、昨晩も頑張ってくださったんですね」


「どうしてわかったんですか?」


「リュミヌーの部屋だけが、まるで地震でも起きてるかのように揺れていましたので」


 とこんな感じで、毎晩のように次世代のハーフエルフ作りの方も頑張っているのだ。


「アラドさま、お弁当をお持ちしました」


「ああ、悪いな」


 いつものように、村の入口で見張りをしていると、リュミヌーが弁当を持ってきてくれた。

 もう昼か。

 俺はリュミヌーから弁当を受け取る。

 弁当の蓋を開けると、白いご飯に鶏肉のから揚げ、それにミニトマトとキャベツの千切りが盛られて甘辛いドレッシングをかけてある。

 俺がもぐもぐと食べているのを、横からリュミヌーが微笑ましそうに見つめている。


「アラドさま、おいしいですか?」


「ああ、おいしいよ」


 俺が食べ終わるまで彼女はずっと左腕にべったりくっついていた。

 弁当を脇に置いて、リュミヌーの身体を抱き寄せ、キスをする。


「愛してるよ、リュミヌー」


「わたしもです」


 こうやってイチャイチャするのも日課になっていた。

 しばらくリュミヌーの温もりを堪能して、俺は話題を変える。


「ところでリュミヌー、行方不明になったというハーフエルフはどこに行ったんだっけ?」


 一週間前、村長がチラッとしゃべってた気がするけど忘れてしまったので聞いた。


「古の地下迷宮という場所に一人向かい、そこで消息が途絶えました」


「なるほど、そのハーフエルフは何故そんな場所に?」


「わかりません……、わたし達にも告げず、行ってしまわれたので」


 そのハーフエルフさえ帰ってくれば、俺はこの村に縛られることなく自由気ままに旅ができるんだけど。


「なあ、俺達でその、古の地下迷宮に行ってハーフエルフを探してくるのはどうだ?」


「でも、村の護衛はどうします?」


「そうだな、もし俺がいない間にAランクモンスターが攻めてきたらヤバいよな」


 この村の住人は年寄りが多く、若い人もいるけど戦闘経験は少なそうだった。


「『魔導砲』が治せればいいんですけど……」


「ん? 何だそれ?」


「あれです」


 リュミヌーが指し示す方を見ると、台座にしっかり固定された黒い大筒があった。

 近くに行って見てみると、それは大砲だった。


「これが『魔導砲』なのか?」


「はい、シャンテがいない時、これでモンスターを撃退していたんです」


「シャンテ?」


「行方不明になったハーフエルフの名前です」


 シャンテ……。

 名前から想像すると女性か?


「でも、シャンテがいなくなった後、モンスターとの戦いで壊れてしまったんです」


「治せないのか?」


「わたし達の技術では無理です。ドワーフ族の、それも凄腕の職人でないと」


 ドワーフ族か。

 確かドワーフ族とは、成人でも人間の子供くらいの身長しかない、小さな種族。

 手先が器用で、武器や防具などの鍛冶や細工とかを造る職人が多い種族だ。


「魔導砲を治せるドワーフ族を見つけられないだろうか?」


「以前とあるドワーフ族に見てもらったんですが、魔導砲はものすごく高度な技術で作られており、並みのドワーフ族では治せないそうです」


 うーん、困ったな。

 何とかその、シャンテとかいうハーフエルフを探してくる間だけこの村を守ってくれる人がいればな。


 そう考えていると。


「アラドさま、誰か来ます!」


「むっ?」


 リュミヌーの声で我に返った俺は前方を確認。

 向こうの方に誰かがこっちに向かって歩いて来る。

 モンスターではなく、人間だ。

 しかも、あれは女性か?

 って、あいつは……。


「ヴェーネ!」


「え? アラド!?」


 その女性は俺の幼馴染のヴェーネだった。

 セリオス率いる勇者パーティーに参加しているはずの。

 しかも、身体中傷だらけじゃないか!

 急いでヴェーネの元に駆け寄る。


「大丈夫か!? ヴェーネ」


「ちょっと、無理しちゃったみたい……」


「大変! すぐに手当てしましょう。さ、こちらに」


 リュミヌーがヴェーネを村長の家まで連れて行く。

 あいつが何でこんなところにいるのかは気になるけど、とりあえずは怪我の治療が先だな。

 俺は二人の後をついて行った。

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