第14話 古の地下迷宮 1層

 視界を横殴りの風雪が遮る。身体の芯まで凍えさせる極寒に耐えながら、俺はイザルス山脈の奥深くにあるという古の地下迷宮へと進んでいる。

 後ろにはこれでもかと防寒着を何枚も重ね着したリュミヌーが、寒さと戦いながらついてくる。


「もうすぐです。アラドさま」


 数分程歩いて前方に視線を向けると、リュミヌーの言った通り、白く染まった岩壁にぽっかりと開いた洞穴。

 あれが目的地の古の地下迷宮か。

 そして、Sランクダンジョンかもしれないという場所。


 人間やモンスターなどと違って、ダンジョンそのものには鑑定スキルが使えないから、そのダンジョンがどのランクなのかは、ある程度深層まで攻略してみないとわからない。

 だから、このダンジョンは、Sランクダンジョンかもしれない、というハッキリしない言い方になる。


 ちなみにランクとは、強さの等級をあらわしたもので、最低ランクがFで、E、D、C、B、A、AA、AAA、とランクが上がるほどに強くなっていき、最高ランクがSだ。

 このランク制は冒険者ギルドが制定したもので、世界中の冒険者ギルドで適応されている。


 それと、冒険者やモンスターの強さにもこのランク制が使われている。


 世界中の冒険者がSランクダンジョンを攻略したがっているのだが、何故こだわるかというと、Sランクダンジョンを攻略すると英雄となり、世界一の冒険者としてみんなから尊敬され、揺るぎない名誉と地位、そして財産が約束される。


 だから基本的に冒険者などという稼業に就いている者はみんなSランクダンジョン攻略を目指すのだ。

 慎ましくも安定した生活を送りたいなら別の職に就けばいいだけだしな。わざわざこんな死や危険と常に隣り合わせな仕事をする必要はない。


 金と名誉、これが冒険者を危険に赴かせる原動力。


 だが今日俺がここに来たのは攻略のためじゃない。

 シャンテというハーフエルフを探すためだ。


「リュミヌー、シャンテの魔力は感じるか?」


「はいっ! あのダンジョンの奥に魔力の奔流を感じます。あれは間違いなくシャンテです」


 これでダンジョンに突入することが決定した。

 もしシャンテが死んでいたら、救出するもくそもないんだから、完全に無駄足になるとこだった。

 まあでも、少なくともAAAランクモンスターが生息していることが確定しているダンジョンに潜入しなきゃいけないから幸か不幸かはわからないがな。


 だがシャンテを救出すれば、俺は村の護衛に縛られなくてもよくなるから、再び自由に冒険することが出来るんだ。リュミヌーと一緒に。


 俺はダンジョンの入口へと歩を進める。


 ダンジョンに入ると、外とはうって変わって気温が高かったので、慌てて防寒着を脱いでアイテムポーチに放り込む。

 今いるのは正方形の広場で、壁のあちこちにロウソクが灯っているので視界は良好。入口から向かって反対側の壁の真ん中辺りが空いていて、そこから細い廊下が奥へと伸びている。


「よし、行くか」


 俺達は広場を横切り、廊下を進んで行く。

 廊下の両脇の壁にもロウソクが一定の間隔で設置されていたので、明かりに困ることはない。


 しばらく歩いていると、前方に黒いウサギのような生き物が待ち構えていた。

 すぐさま鑑定スキルで確認すると、Cランクモンスター、ブラックラビットと出た。

 俺は片手剣を鞘から抜くと、ダッシュして一気に間合いを詰めた。ブラックラビットは慌てて戦闘態勢に移行するも、既に手遅れだ。俺はすれ違いざまにブラックラビットを一刀両断。

 胴体を真っ二つにされたブラックラビットは床にドサッと倒れこみ黒い霧みたいになって消滅した。


「アラドさま! 鮮やかです!」


「油断するなよ」


 武器をしまって再び廊下を歩く。


 ダンジョンというのは基本的に浅い階層には低級なモンスターしかいない。強力なモンスターは深い階層に生息しているものだ。

 今いるのは1層だから、低級な奴しかいない。

 しばらく歩くと十字路に差し掛かった。


「アラドさま、分かれ道ですね。どうしましょう」


「取り敢えず、右に曲がってみるか」


 俺達は十字路を右に折れる。

 ひたすら歩き、再び正方形の広場に出た。


「わあっ、広い場所に出ましたね」


「リュミヌー、気を付けろ」


「えっ?」


 俺はリュミヌーの立っている場所のすぐ前の床を片手剣で突く。

 すると、その場所に落とし穴が出現した。


「……危ないところでした、ありがとうございます、アラドさま」


「ダンジョンはモンスターだけじゃなく、トラップもあるから迂闊な行動はしない方がいい」


「わかりました」


 俺は罠看破スキルを発動、すると広場の床のあちこちが赤く光る。あの光っている所にトラップが設置されているのだ。リュミヌーをエスコートしながら赤い光の床を踏まないように進む。当たり前だが、赤い光が見えているのはスキルを発動した俺だけだ。リュミヌーには見えていないはず。


 盗賊系スキルが充実している【短剣使い】ならば、パーティー全員にトラップが視認出来るようになるスキルが使えるらしい。あと、罠を解除するスキルとか。


 俺達冒険者は『使用している武器』によって習得したり使ったりできるスキルが決まるからな。

 【短剣使い】は罠看破や罠解除、盗む、などといった盗賊系スキルを中心に習得していくのだ。あと素早さが上がるパッシブスキルとか。

 だから、【短剣使い】はもし職業に例えるなら『盗賊』に当たるのだろう。


 あと、覚えたスキルは、『使用武器』を変更すると使えなくなる。

 例えば、【短剣使い】で覚えた盗賊系スキルは、他の武器に変更すると使用できなくなる。


 俺は【片手剣使い】で、片手剣は攻撃系スキルや探索系スキル、魔法系スキルなど色んな分野のスキルを、広く浅く習得する。

 だからあらゆる場面に対応が可能なオールラウンドプレーヤーなのだ。


 もっとも、この広く浅くの「浅く」ってところを問題視する冒険者が多いんだけどね。

 セリオス達もそうだったし。

 なので冒険者、特に高ランクの冒険者には、片手剣使いを嫌ってる人が多く、パーティーに入れたがらない。

 お陰で俺はセリオスのパーティーを追い出されたあと、どこのパーティーにも参加させてもらえなかったわけで。

 さしずめ、俺の【片手剣使い】は『不遇職』ってとこか。

 まあでも、俺は片手剣が好きだから武器を変える気はないんだけどね。


 広場を無事に抜けて廊下に出て直進する。道中のザコモンスターを露払いしながら進んで行くと、下の階層に続く階段を発見。

 取り敢えず、シャンテはもっと下の階にいるみたいだから、この階層には用事はない。宝箱は回収しなかったけどそれが目的じゃないしな。


 俺達は迷うことなく階段を降りて行った。

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