第4話 キャンプ

 俺はリュミヌーと一緒に王都に続く街道を歩いていた。


 緊急討伐依頼を達成したから、ギルドに報告しなきゃいけない。

 グレイトコングはCランクモンスターだから、それなりの報酬だ。

 次の仕事を見つけるまでの貴重な資金源になるから、きっちり受け取ってこなきゃ。


 街道では何人もの旅人や行商人とすれ違ったが、誰一人リュミヌーを怪しむ者はいない。

 フードをかぶせて耳を隠しているからな。

 人間の中にはエルフ族に偏見を持ってる人が多いから。

 エルフ族だってことがばれたら何かと面倒そうだ。


「日が暮れてきましたね、アラドさま」


 お、そういえば。

 リュミヌーの言う通り、日もだいぶ傾いてあたりは薄暗くなってきた。


「うーん、このまま歩けば王都に着くのは深夜になりそうだな」


「何か問題でもあるのですか?」


「深夜になると強力なモンスターがうろつくんだ。余程旅慣れた人じゃないと、基本的に深夜の旅は危険だ」


 もっとも、この辺のモンスターは弱いから深夜でも余裕っちゃ余裕だけど。

 でも俺一人ならいざ知らず、リュミヌーが一緒だからなあ。


 リュミヌーがどれくらい戦えるかわからないけど、あんまり危険な目にあわせたくない。

 それにグレイトコングから逃げ回ったせいで疲れてるだろうし。

 安全策をとって、今日はここでキャンプして明日の朝改めて出発するか。

 うん、そうしよう。


「リュミヌー、今日はここでキャンプにしよう」


「はい!」


 俺達は手頃な場所でキャンプをすることにした。



 ◆◆◆◆



「よし、これで焚き火の準備は完了だな」


 俺達は近くから焚き火に使えそうな木材を集めてきた。

 あとはこれに火を付ければ。


 『着火』!


 俺は人差し指を立てて念ずると、指先に小さな火がともった。

 それを木材の束に投げると、ぼわっと燃え上がった。


「さて、次は晩ご飯の準備だな」


 いつもは非常食を持ち歩いているんだけど、あいにく今は切らしている。

 この辺でイノシシでも狩って食べるか。


「リュミヌー、俺はこれから晩ご飯の準備に行く。君はここで待ってるか?」


「いえ、わたしも何かお手伝いしたいです」


「うーん、別にしてもらうことはないんだけど……じゃあ一緒にイノシシ狩りにいく?」


「はい! 是非お供させていただきたいです!」


 リュミヌーは立ち上がり、俺の横に並んで微笑みかけてきた。

 ここで一人で留守番させるより、目に留まるところに居てもらった方がいいか。

 俺とリュミヌーはイノシシ狩りに近くの森に向かった。


「あっ! あそこにいます!」


「シーっ! 静かに」


「はい……」


 リュミヌーは両手で自分の口をふさいだ。

 俺はスキルで足音を消して静かにイノシシの背後をとり、片手剣で切り伏せた。

 イノシシが悲鳴をあげてその場に倒れる。

 これで今日の晩ご飯は確保できた。

 俺はイノシシをその場で解体し、肉を剝ぎ取る。


「よし、これだけあればいいか」


「アラドさまは器用ですね」


「それが取り柄だからね」


 俺とリュミヌーは肉を持って、元のキャンプ地へと戻った。


 次は調理だな。

 といっても、肉を焼くだけだけど。


 アイテムポーチから肉を刺すための金属製の針を取り出す。

 さっき手に入れたイノシシの肉を針で串刺しにする。

 あとはこれを焚き火でまんべんなく焼けば……。


 バチバチと肉が焼け、あたりに香ばしい匂いが漂う。

 うー、たまらん。早く焼けてくれ。

 リュミヌーを見ると、彼女も生唾をごくんと飲んで焼けていくイノシシ肉を眺めている。


 しばらくして、イノシシ肉がいい感じに焼けてきた。


「はい、これがリュミヌーの分」


 リュミヌーに串刺しを差し出すと、彼女はお礼を言ってそれを受け取った。


 それじゃ。


「「いただきまーす!」」


 俺はこんがり焼けたイノシシ肉にがぶりと食いついた。

 口の中にじゅわっと肉汁が広がる。


「う、うまいー!」


「お、おいひいれすー!」


 リュミヌーがイノシシ肉にかじりつきながらもごもごと感想を言ってる。


「いやー、この瞬間のために生きてるわー」


「わたし、こんなおいしいもの食べたのはじめてです!」


 大げさだなあと思ったが、リュミヌーはあまりのおいしさに本気で感動してるみたいだ。


「アラドさまは料理も得意なんですね!」


「いや、簡単なのだけしか作れないけど」


 俺達は腹いっぱいイノシシ肉を食べて、眠くなったので寝ることにした。


「リュミヌーはテントの中で寝ていいよ」


「アラドさまは?」


「俺はテントの外で焚き火の見張りをしながら寝袋で休むよ」


「なんか、申し訳ないです……、わたしのせいで」


「気にするな。俺はこういうの慣れてるから」


 実際冒険者になれば2、3日の野宿は日常茶飯事だからな。

 こうしてその日の夜はふけていった。



 ◆◆◆◆



「おはようございます!」


 銀鈴のような声で俺は目を覚ました。

 寝袋から顔をあげると、すっかり元気になったリュミヌーが笑顔で俺の顔を覗いていた。


「おはよう、もう朝か」


「はい、朝食はもう出来てますよ」


 えっ、もう?

 俺は寝袋から身を起こすと、リュミヌーの近くにいく。

 見ると、昨日の残りのイノシシ肉が真っ黒に焦げていた。


「あの、昨日のアラドさまが作ったイノシシ肉を見よう見まねで焼いてみたんですが……」


 どうやら焼すぎてしまったようだ。

 意外と焼き加減を見極めるのは慣れがいるからな。

 ま、最初だしこんなもんか。


 俺はちょっと微妙な味の朝食を食べ終えると、リュミヌーと共に王都へ続く街道を再び歩き出した。

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