第3話 エルフ少女との出会い
ギルドで緊急討伐依頼を受注した俺は、王都の北門から外に出た。
道なりにしばらく歩いて行くと、目的地である『ベルーニの森』が見えてきた。
この森は王都テルネアから北部の商業都市まで行くのにどうしても通らなければならない。
そんな場所にCランクモンスターであるグレイトコングが出没したとあっては、北部に向かう行商人や旅人が被害にあう可能性が高い。
そういう戦闘能力のない一般人を脅かす、モンスターなどの脅威を取り除くのも、俺達冒険者の仕事だ。
森に入ると俺は、地面の痕跡を確認。
グレイトコングの足跡は特徴的なので、見つかれば居場所を追える。
木漏れ日の光を頼りに、念入りに地面を調べていくと、人間の足跡のゆうに5倍はあろうかという大きな足跡が森の奥へと点々と続いていた。
「こりゃ間違いなくグレイトコングの足跡だ。なんでこんな場所に?」
普通こんな人通りの多い街道付近には高ランクモンスターはいないはずなんだけどなあ。
人通りが多いというのは、その場所が安全な場所だから人通りが多くなるわけで。
ベルーニの森はモンスターがいても低ランクのやつしかいないから、少し腕に覚えのある一般人なら護衛なしでも通過できるくらいなのに。
事情がどうあれ、グレイトコングは間違いなくこの森に潜んでいるのだ。
このまま放置すればそのうち犠牲者が出るに違いない。
俺は周りに注意を払いながら、慎重に足跡にそって森の奥へと入った。
街道から外れて森の奥に行くと突然、
「キャー!」
女の悲鳴だ。
俺は急いで悲鳴のした方へ走っていった。
少し開けたところで、女の子がモンスターに襲われていた。
女の子を追っかけているのは、ゴリラみたいな姿をしたモンスター、グレイトコング。
俺は挑発スキルをグレイトコングに向けて使った。
「狙うなら俺にしろ!」
俺の気迫を察知したグレイトコングが、くるっと向きを変えた。
そして地鳴りをあげながら俺の方へと突進してくる。
俺は左手の盾でグレイトコングのパンチを受け止めた。
「足元ががら空きだ!」
俺が右足で足払いをすると、グレイトコングがすっ転んで尻餅をついた。
「ウホウホ!?」
その隙に右手の片手剣で、グレイトコングの左肩から右脇腹にかけて袈裟斬りにした。
ドバっと血しぶきがあがる。
だが。
「チッ! やっぱ一撃では倒せないか」
傷が浅く、致命傷にはなってなかった。
グレイトコングが態勢を立て直し、後ろに跳躍。
俺と距離をとった。
「ウホウホ!」
グレイトコングは足元に転がっている岩の塊を拾って俺に投げつけてきた。
「チッ!」
俺が岩の塊を盾でいなすも、次々と岩が飛んでくる。
片手剣と盾で飛んでくる岩を捌きながらグレイトコングに近づくも、敵はすぐに後ろに下がって常に距離をとってくる。
そして同じように岩の塊を投げて攻撃。
接近戦では分が悪いと踏んだのだろうか。
でかい図体して意外と小心者なんだな。
「そっちが飛び道具でくるならこっちだって」
俺は右手に魔力を込めると、
『火球』!
俺は右手からいくつもの火炎の球をグレイトコングめがけて飛ばした。
「ウホッ!」
火球を受けてグレイトコングの態勢が崩れた。
チャンスだ。
俺は一気にグレイトコングの間合いに入って頭頂部から垂直に片手剣を振り下ろした。
「グオオオオー!」
グレイトコングは断末魔の叫びと共に地面に崩れ落ちた。
俺は片手剣を鞘に収めて、地べたに座っている女の子の元へ。
「大丈夫か?」
「あ、危ないところを助けて頂きありがとうございます!」
女の子は立ち上がるとお礼を言ってペコリと頭を下げた。
すごい美人だ。
腰まで届く金髪は絹糸のようで、見つめると吸い込まれそうなきれいな瞳に可憐な唇、白磁のような美しい肌に大胆な胸。
これほどの美人は王国広しといえども、そうはいないんじゃないだろうか。
ん? でもあれ? よく見ると。
「君、もしかしてエルフか?」
俺がそう言うと少女の瞳に僅かな動揺の色が。
「い、いえ、その……」
ごまかそうとしても無駄だ。
その特徴的な耳はどう見たってエルフのものだ。
「いや、心配しなくても、俺は奴隷商人じゃないから」
俺の言葉に、少女の表情から緊張が消えた。
少女はそっと口を開いた。
「実は私、故郷の里から人間の街まで運ばれる途中だったんです。隙をついて逃げてきたんですが、そこで……」
「あのグレイトコングに襲われた、ってわけか」
少女がこくんと頷く。
エルフ族は人里離れた森の中でひっそりと暮らしている種族だと聞いたことがある。
だが、エルフ族は常に人間から迫害されてきた。
人間から色々とひどい目にあわされているようだ。
特にエルフ族の女性はその美しい姿から、奴隷として人間社会で売買されている。
この娘もそういう人間の被害者ってわけか。
俺は少女に声を掛けた。
「とりあえず、傷の手当てをした方がいいな」
アイテムポーチから回復アイテムのポーションを取り出して、少女に渡した。
「わあ、ありがとうございます」
少女は嬉しそうにポーションを受け取ると一気に飲み干した。
少女の身体のあちこちにあった傷が、みるみる塞がっていく。
この程度の傷ならポーションで充分だったな。
もっと傷が重ければ、より高価なハイポーションを使わないといけない。
「優しいんですね、えっと、あの……」
少女はもじもじしている。
あ、そっか。
まだ名前を名乗ってなかったな。
「アラドだ」
「アラドさん……ステキな名前ですね。わたしはリュミヌーといいます」
そう言って目の前のエルフ少女――リュミヌーはもう一度ペコリとお辞儀した。
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