第2話 最後の依頼
俺が勇者パーティーを追放されてから3日たった。
「うーん、悪いが片手剣使いはうちのパーティーに席はないな」
「……そうですか……」
また断られた。
この3日間、いくつものパーティーに加入申請を出したが全部門前払い。
俺に興味を持ってくれる冒険者は一人もいない。
王都の中央広場にある噴水近くのベンチに腰掛け、俺は溜息をつく。
俺がどこのパーティーにも歓迎されない理由。
それは、俺が片手剣使いだからだ。
片手剣は攻撃と防御両方にバランスのとれたオールラウンダー。
尖ったところはないが、どんな状況にも対応できるのが魅力と言えよう。
だからこそパーティーの穴埋め職として機能する。
低ランクの頃の冒険者には、そのバランスの良さゆえに使い勝手が良く重宝されるので需要がある。
実際俺も初期の頃はセリオス達に頼られる場面が多かった。
太刀や斧みたいな高火力武器は低ランクのうちはクセが強くて使いづらいし。
だから、低ランク帯のダンジョンを攻略してた頃は俺の活躍が目立ってた。
しかしBランクを超えた辺りから、片手剣を使う冒険者はめっきり減少する。
理由はまさにその特徴であるオールラウンダーな武器ゆえに。
オールラウンダーというと聞こえがいいが、裏を返せば、突出した特徴がない。
純粋な火力なら太刀や斧、大剣といった火力特化武器にはどうしたって勝てない。
タンク職なら防御特化の槍の方がより上手くこなせる。
後方からの魔法攻撃なら杖の方が格上だ。
要するに片手剣は、あらゆる役割をそれなりにこなせるが、その役割のスペシャリストには勝てない武器なのだ。
そしてBランク以上のモンスターは攻撃力も防御力も魔力も、Cランク以下とは桁違いの化物。
片手剣ではそのインフレについていけない。
なので高ランクの勇者パーティーから片手剣使いは歓迎されないのだ。
Cランク以下のパーティーなら入れるかもしれない。
だが俺は既にAランクの世界をも垣間見てきた冒険者。
冒険者とはより上のランクを目指すもの。
いつまでも自分が通用する低ランク帯でくすぶり続けるのは、冒険者としては少し恥ずかしい生き方だ。
「……そろそろ潮時なのかもな」
俺はベンチから立ち上がると、冒険者ギルドに続いている道を歩いて行った。
◆◆◆
冒険者ギルドの扉をくぐり、俺は受付のカウンター前に立った。
カウンターの向こうから、受付嬢のエルナさんが応対してくれた。
「あっ、アラドさん。依頼の受注ですか?」
エルナさんは二十歳の女性で俺より二つ年上だ。
亜麻色の髪と吸い込まれそうな瞳が印象的な女性で、面倒見が良くてすごく美人だとここに来る冒険者にもっぱら評判がいい。
そのエルナさんがとびきりの笑顔を俺に見せて、依頼書を俺の前に差し出そうとしていた。
「いや、今日きたのは依頼を受けるためじゃなくて、その……、冒険者を辞めようと思って……」
俺がそう言うと、エルナさんの手がピタリと止まる。
そして、さっきまでの笑顔は跡形もなく消え去り、まるでこの世の終わりみたいな表情になった。
「ど、どうしてですかアラドさん!? 私の応対になにか不備でもあったのでしょうか!?」
なぜか慌てふためくエルナさんに、俺は「いやいや」と首と両手を振って、
「そうじゃないんだ。実は、その……」
「じゃあなぜ冒険者を辞めるなんて言うんですか!?」
涙目になって俺に訴えかけてくるエルナさん。
「俺、セリオスのパーティーを追放されちゃって、他のパーティーに入れてもらおうとしたんだけどどこにも入れてもらえなくて……。だから冒険者を引退しようと思ったんだ」
「それならずっと低ランクの依頼をこなしていけばいいじゃないですか! それでも立派に稼いでいけますよね!?」
「まあそうなんだけどね……。でもそれじゃ、俺が納得できないんだ」
「アラドさん……」
しばらく気まずい沈黙が場を支配したが、
「あの、アラドさん。実は今緊急の討伐依頼が来てるんです。Cランクのモンスター、グレイトコングの討伐依頼です。今中堅冒険者がみんな出払っていてこの依頼を受けてくれる人がいないんです! どうかこの依頼を受けてくれませんか!?」
そうエルナさんが真剣な表情で訴えてきた。
俺は少し迷ったけど、緊急討伐依頼は下手をすると人命に関わるので放置するには忍びない。
それに他に受ける人がいないとなると、俺が受けるしかないのだろう。
でもまてよ。
もしかして、エルナさんが俺に冒険者を辞めることを思いとどまって欲しくて、それで緊急討伐依頼をでっち上げた可能性も考えられる。
討伐依頼をこなせば俺の冒険者に対する情熱を取り戻してくれる、と思って。
まあどっちにしろ、俺に選択肢はない。
引退前の記念に討伐依頼をこなして、次の人生に向けて気持ちを切り替えるのも悪くない。
「わかったよ、エルナさん。その緊急討伐依頼を受ける」
するとエルナさんはパッと明るい表情になって、
「本当ですか!? ありがとうございます! アラドさん!」
そう言って俺に一枚の依頼書を手渡した。
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